図1●ひまわり証券が利用者の使い勝手を考慮して盛り込んだ工夫
図1●ひまわり証券が利用者の使い勝手を考慮して盛り込んだ工夫
2006年11月に稼働させた新しい証券売買システム「Hits証券デリバティブ」では,利用者の使い勝手を考慮して,工夫を凝らした
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 この1年ほどでWebシステムの使い勝手を取り巻く環境は一変した。Ajax(Asynchronous JavaScript + XML)技術などを用いた,使い勝手の良いサービスがインターネット上で数多く提供されるようになり,利用者の使い勝手に対する目が肥えてきた。もはやWebシステムであっても使い勝手の悪いものは許されない。

 こうした動きを受け,ひまわり証券は2006年11月,既存のWebブラウザ向け証券売買システムの再構築に踏み切った。旧システムでは,「必須入力項目が分かりにくく苦情を寄せられたこともあった」(証券企画1課 濱中郁和氏)。そうした使い勝手の悪さを一掃しようと,新システムでは使い勝手にこだわった。「電話,メール,掲示板への書き込みのほか,ときにはお客様が直接本社に出向いてくださり,多くの方々から売買システムの使い勝手に関する要望や不満を伺った。そうした意見から導き出した“理想の使い勝手”に近づけた」(濱中氏)。

 例えば,売買の執行条件を選ぶと,必須入力項目を残してそれ以外は画面から自動的に消える。入力内容に不足や間違いがあると,項目の枠を赤色に変えて通知し,どうすればいいかをバルーン・ヘルプで具体的に表示する(図1)。

 ひまわり証券で使われた技術が「リッチクライアント」である。リッチクライアントとは,クライアント・マシンの処理能力を生かし,使い勝手のよいユーザー・インタフェース(UI)を実装できる製品・技術を指す。

リッチとの出会いで思いがかなう

 「基幹システムは社員が毎日使うんですよ。だからこそ,より楽しく,より使いやすくしたいんです」――。

 コールセンターの構築・提供サービスなどを手がけるベルシステム24の早川賢氏(統合サービス本部 ネットワーク情報システム室 室長)は,販売管理システムの再構築に当たってそう考えていた。だがクライアント/サーバー型の旧システムをなかなかリプレースできず,リッチクライアントと出会ってようやく実現できた。

 旧システムは使い勝手にこだわって作り込んでいた(図2左)。同社社員がシステムの使い勝手に向ける目は厳しい。「画面上の帳票内でカラムを移動すると自動計算するのは“当たり前”だし,画面遷移など待ってはくれない」(ネットワーク情報システム室 アプリケーション・データベースグループ 荒川史絵氏)。利用者にとっては満足度の高いシステムだったが,開発・運用担当者の負担は重かった。クライアント数は約1万台あり,バージョンアップのたびにそれらにアプリケーションを配布しなければならない。開発者は,ライブラリ・ファイルのバージョン競合に起因する不具合“DLL地獄”に悩まされてきた。

図2●ベルシステム24はリッチクライアントで“誰も我慢しないシステム”を構築
図2●ベルシステム24はリッチクライアントで“誰も我慢しないシステム”を構築
利用者の使い勝手を考慮してファットクライアントで作り込んでいたが,開発者と運用担当者は陰で苦労していた。Webブラウザへの移行を試みたこともあったが,十分な使い勝手を実現できず断念。その後,リッチクライアント「Flex」に移行した
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 こうした状況から抜け出そうと,これまで何度か新システムに挑戦しては断念してきた。例えば,ExcelとWebアプリケーションを連携させる方法,Webブラウザ内でExcelを動作させる方法などを試したが,どの仕組みもうまく行かなかった(図2中央)。

 そんなある日,システム基盤の設計で付き合いのあったSIベンダー,クラスメソッドの横田聡氏(代表取締役)に相談した。議論の中で解決策として挙がったのが「リッチクライアント」である。これを生かせば利用者も開発・運用担当者も我慢しなくて済むのではないか――そんな期待を込めてシステムの再構築が決まった。

 使い勝手に関する仕様は旧システムをほぼ踏襲し,新システムは2005年春に本稼働。利用者の使い勝手を損ねることなく,開発・運用担当者の手間を軽くできた(図2右)。新システムでは会社のロゴをアニメーションで表示するなど,「社員に少しでも楽しんで使ってもらいたい」(早川氏)との思いを形にした。社員から「カッコよくなったね!」と反響がある。

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 Ajaxなどここに来て注目を集めるリッチクライアント技術だが,成熟していない面があることを知っておきたい。ベルシステム24の早川氏らも一時は窮地に立った。旧システムでは一瞬で終わる処理が,リッチクライアントの新システムでは1分近くかかったからだ。チューニングで解決できたが,「またお蔵入りかと覚悟した」(早川氏)こともあったという。

 本特集では,リッチクライアントを用いたシステム構築プロジェクトを成功させるのに欠かせないノウハウをまとめた(図3)。成否を分ける最大のポイントは,使い勝手に関する要件定義と仕様化だ。そうした上流工程で役立つ四つの工夫と,それを支える方法論を紹介する(第2回,第3回)。

図3●現場エンジニアの悩みと本特集の構成
図3●現場エンジニアの悩みと本特集の構成
リッチクライアントを活用したシステム構築を担当したエンジニアが直面した悩みは意外に多い。この特集では,リッチクライアントを活用したシステムでトラブルを起こさないための開発プロセス,工夫,基礎知識を紹介する

 その後,設計・開発・テストのコツを示す(第4回,第5回)。第6回,第7回,第8回では選定時に必要な製品・技術情報を,第9回,第10回では使い勝手を高めるUIデザインの基礎知識を紹介する。