ホンダファイナンスの磯野恭一常務は、システムは自分を移す鏡だと表現する。設計者の資質やロジックがアウトプットの質を決めるからだ。

 磯野さんは、本田技研でキャリアをスタートし、ヨーロッパ統合に向けて国を越えたシステムを作った人だ。日本に戻ったのは、ホンダがIT(情報技術)の戦略的活用を経営方針とした時期だった。営業部門でのIT活用を目的としたIT室で、営業の現場の意見を次々にシステムに反映していった。ホンダにとってITがどれだけ営業に使えるかの試金石となったプロジェクトだった。

 ホンダファイナンスで取り組んだのは「見える化」の徹底的な推進だった。まず、全国のホンダ販売店で締結されるクレジットの実績を営業部別にリアルタイムに把握できるようにした。システムの取り組みは、予算と実績、営業の進ちょく情報を見せるだけだが、人は見られていることで向上心が働き、全体のパフォーマンスが向上した。磯野さんのいうアウトプットの質の一例だ。

 CIOとしての仕事は、無数の経営情報をどう整理して誰と共有するかを設計することだ。本社と全国7つの地区営業部はオンラインで結ばれ、情報共有には大型ディスプレーが使われている。リアルタイムの実績が10分ごとに更新される。個人別の実績はあえて表示しないが、連動するパソコンで個人の営業実績、各営業が担当するホンダ販売店の拠点別実績を見せている。ここまですることを管理とみるか公正とみるか。磯野さんは、数値化はモチベーションを下げる要因とはならず、数字の裏に隠れている真実をマネジメントが把握する材料になると考えている。実績の徹底的な「見える化」により、販売状況分析など本来の仕事に重点をおけるようになったのだ。

 数字を100%達成するとコンピュータに花が咲く。磯野さんの遊び心だ。それを見て「おめでとう」と電話をする。「いやー、実を言うと」という話が始まって数値の裏の現場が見えてくる。この花をつけてから、営業のみならずシステムや総務部門の人間も数字に興味を持つようになった。10分おきに変わる数字を見て、みんなが話を始め、全社が同じ方向を見始めた。アクションを促す「見える化」が大切だ。そうでなければ紙をコンピュータに替える意味はない。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA