模造紙の代わりに、大型ディスプレイを使って、「見せる」工夫をしている会社もある。冒頭で紹介したクリーニングのハッピーが、その1社だ。同社は、工場の至るところに大型ディスプレイを設置し、社員が担当している仕事の内容や進捗状況を、リアルタイムに表示している(図1)。

図1●ハッピーは社内の至るところに大型ディスプレイを設置
図1●ハッピーは社内の至るところに大型ディスプレイを設置
作業の優先順位や進捗状況を社員に伝える

 一見すると、名前と商品の分類番号しか表示していないシンプルな画面だが、同社は「色」使いを工夫している。例えば、洗浄前の工程は「赤字」、洗浄後の工程は「青字」で表示。計画よりも遅れが発生すると、行全体を黄色で表示し、応援に駆けつけられる社員の氏名を表示する。

 ディスプレイに表示する作業計画や優先順位は、自社開発した工程管理システムが自動的に決めている。例えば、急いでいる顧客の商品や、配送に時間がかかる遠方に住んでいる顧客の商品から、優先的に作業するようにプログラムしてある。社員は工場内の大型ディスプレイを見るだけで、次にどの商品をクリーニングすればよいかが分かる仕組みだ。

 「信号機は3色だけで、交通網を制御している。目的によって見せ方は変わるが、現状を把握したり、指示を伝えるためならば、あれもこれもと欲張らず、必要最低限の情報が直感的に分かるようにした方がよい」と、橋本社長は指摘する。

加工せずに“そのまま”見せる

 「情報を見やすくするために加工しすぎると、意味が変わってしまう危険性がある」。こう指摘するのは、無添加石けんの製造・販売を手掛けるシャボン玉石けんの森田隼人社長だ。

 同社には毎月200通近い手紙や電子メールが届く。コールセンターに寄せられる相談や要望も合わせると、1カ月当たり500件を超えることもある。「湿疹が治った」といった感謝の声や、「こんな商品が欲しい」といった要望など、その内容はさまざまだ。これら顧客の声は、「そのまま」の形で社長をはじめ、社員全員が読めるよう回覧したり、毎月開催している商品の企画・改善会議の資料としている。

 1974年から25年以上も無添加の粉石けんと固形石けんにこだわってきた同社が、2002年以降、無添加の液体石けんや、石けんが主成分のハミガキ粉を立て続けに投入したのも、実は「何度も寄せられた顧客からの声がきっかけだった」(森田社長)。

 顧客の声をできるだけ「生」の形で記録できるよう、同社は2006年5月に約5000万円を投じて、コールセンターのシステムを刷新。顧客の要望をオペレータが要約せずに、システムに入力できる仕組みを整備した。

 「顧客満足度などの統計値だけに頼ってしまうと、その裏に隠れている理由や背景を見落としてしまう。顧客がどれだけ新しい商品を切望しているのか、また、改善してほしいのかは、生の声だからこそ伝わってくる」(同)。「見える化」の合理性を追求しすぎず、何を「見える」ようにしたいのかを考えることも時には必要だ。