業務の流れや内容を細かく分解・計測して「見える化」しても、それらの情報を競争力強化のために活用できなければ意味がない。経営層や管理職はもちろんのこと、業務に携わっている社員一人ひとりに業務品質や生産性を高める“気づき”与えるには、「見せる」工夫もまた不可欠となる。

 社員数26人の文具店、山崎文栄堂のオフィスに一歩踏み入れると、おびただしい数の掲示物が目に飛び込んでくる(図1)。個人ごとの目標や営業成績のグラフ、顧客の声を記したカード、業務の改善提案、チームの評価シートまで、社内のあらゆる情報が記された掲示物が、廊下やオフィスの壁、トイレの中まで埋め尽くしている。

図1●山崎文栄堂は、情報を社員に「見せる(意識させる)」ことを重視
図1●山崎文栄堂は、情報を社員に「見せる(意識させる)」ことを重視
オフィス内の壁や廊下、トイレの中まで、グラフや表など掲示物で埋め尽くされている

 「これらの掲示物が、会社の風土を変える原動力になった」と、山崎登社長は強調する。オフィス用品通販、アスクルの代理店を始めた10年前、同社の売り上げは数億円。「社内は暗く重い雰囲気が漂っており、今のような社員の一体感は少しも感じられなかった」(同)。そこで同社は2000年から、掲示物を使った「見える化」を開始。社員で意識を共有する風土改革を進めた結果、売上高は改革前の約10倍となる32億円(2007年8月期予想)、社員1人当たりの売上高は1億2000万円を超えるまで成長した。

 同社が取り組んだ「見える化」のポイントは、パソコンの中だけに、データをため込まないことだ。定期的にデータを集計し、模造紙に描いてオフィス内に張り出す。「顔を上げたとき、情報が目に飛び込んでくるようにすることが重要。パソコンでファイルを共有しても、それが見られなければ意味がない」と、山崎社長はアナログな「見える化」の利点を強調する。

厳しい現実を“楽しく”見せる

 オフィスの壁一面に営業成績などのグラフが掲示してあると、かえって社内がギスギスするような印象を受ける。実際、同社が業務の「見える化」に取り組み始めた当初は、社員の半分が辞めてしまった。情報をオープンにする方針に馴染めなかったためだ。

 「正直、他人に隠しておきたいデータはたくさんある。それらを前向きにとらえられるようにするには、社長や管理職が“見える化”を押し付けてはダメ。社員が主体となって、“楽しく”見せる工夫が不可欠」と、山崎社長は助言する。実際、同社の掲示物は、写真を張ったりイラストを描いたカラフルなものが多い。

 山崎社長が指摘する楽しく見せる工夫の一つが、「ネーミング」だ。例えば、同社では顧客からのクレーム電話を「ラッキーコール」と呼び、30分以内に対応できたかどうかを掲示している。「当社の問題点を、わざわざ指摘してくれるのは、とても“ラッキー”なこと。普通なら顧客は何も言わずに去ってしまう。クレームに素早く真摯に対応すれば、顧客は逃げず、再び注文してくれる」(同)。

 ほかにも、法人向けサービスの営業成績は「白くまくんキャンペーン」と題して、同名のアイス菓子の写真を張り付けたグラフを掲示。上司が営業担当者に同行する人材育成施策の実施回数は、人気テレビ番組の名前をもじって「ウルルン同行記」と題し、写真とともに行動記録を掲示している。これらのネーミングや、グラフなど掲示物の作成は、社員に任せている。社長や管理職はほとんど、口を出さない。

 「当社のこうした取り組みを“くだらない”“幼稚だ”と言う人はいる。だが、ネーミングを変えるだけで、情報の見え方はガラリと変わる。少しでも前向きにデータをとらえられる工夫なら、何でもやってみる価値はある」と、山崎社長は強調する。