「一戸建て住宅の値段が、どう決まっているか知ってますか?多くの工務店や住宅メーカーは、値段の根拠を示せないんです」。注文住宅の建設・販売を手掛けるアキュラホームの宮沢俊哉社長は、こう言い切る。

 間取りや外観のデザインを自由に決められる注文住宅の価格は、坪単価40万~80万円が相場だ。一方、アキュラホームは同21万円から手掛けている。圧倒的なコスト競争力で同社の売上高はこの5年で約5倍、204億円(2007年3月期)にまで成長した。この成長を支えているのが、住宅建築コストの「見える化」だ。

 一般的な注文住宅の見積もり書を見ると、「基礎工事一式 ○○円(一坪○○円)」など、「一式いくら」の表記が多い。一方、アキュラホームの場合、基礎工事だけでも約20工程に分類され、それぞれの工程で用いる資材単価や作業単価、想定工数などが、びっしりと記されている。

 「一式いくらの世界では、無駄なコストがあるかどうか分からない。住宅建築の工程やコストの構造が細かく見えれば、どこに無駄があるかが分かるし、顧客への説明責任もきちんと果たせる」と、宮沢社長は言う。

大工の経験をデータベース化

 アキュラホームの心臓部は、住宅建設の工数やコストなど約4500種類の基礎データと、約300パターンの積算データを蓄積したシミュレーション・システム「アキュラシステム」だ(図1)。住宅の床面積や部屋数、デザインなどを入力すれば、必要な資材コストや工事の工数、人件費などを計算できる。

図1●アキュラホームは戸建て住宅建設の工程を約4500種類に分解
図1●アキュラホームは戸建て住宅建設の工程を約4500種類に分解
工数や費用を「見える化」するシステム「アキュラシステム」を独自に開発した
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 現在は、同社に在籍する4人のシステム部員が、アキュラシステムの基礎データをアップデートしたり、機能を強化しているが、もともとは宮沢社長自身が作ったシステムだ。中学卒業後、大工の道を歩んできた宮沢社長は、1981年に独立したのを機に、住宅建設の工程や工数、コストなどを管理するデータベース作りに取り組んだ。

 データの精度を上げるため、今でも社長自身が建築現場に足を運ぶ。ノートとストップウォッチを持ち、「柱を立てるには何人必要か」「柱のカンナがけは何分かかるか」など、細かくデータを計測していく。「今日見たものが、明日も同じとは限らない。“見える化”を持続させるには、現場に足を運ぶことが大切だ」と、宮沢社長は強調する。

人の性格まで「見える化」 ――デジタルスケープ

 ゲーム・クリエイターの人材派遣を手掛けるデジタルスケープは、一人ひとりの性格を「見える化」することで、派遣社員の仕事に対する満足度や、仕事の定着率を高めている。

 具体的には、「仕事の内容はチーム型が適しているか、それとも個人型か」「任せられる仕事と、指示を細かく与えられる仕事、どちらが“ストレス”を感じるか」「人前で話すのは得意か、苦手か」など、約50ある診断項目ごとに10段階で性格を定量化する。この診断結果を基に、同社はクリエイターの派遣先を決める。診断システムは、約3000人のサンプルを基に、2年がかり2億円を投じて自社開発した。

 「どんなにスキルが高くても、職場環境が合わなければパフォーマンスを発揮できない。性格を“見える化”することで、クリエイター、派遣先、当社のいずれもが幸せになれる」と、藤川幸廣社長は語る。

図A●デジタルスケープは“人”の性格や業務適性を数値化し、人材の適材適所を図る
図A●デジタルスケープは“人”の性格や業務適性を数値化し、人材の適材適所を図る
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