ストレージの仮想化には,いくつかの実現方式がある。仮想化エンジンの実装位置の違いにより,次のような3方式に分類できる(図5)。
図5●ストレージ仮想化の実現アプローチ [画像のクリックで拡大表示] |
(1)ストレージ・コントローラ型
ストレージ装置のコントローラに仮想化エンジンを実装するアプローチを「ストレージ・コントローラ型」と呼ぶ。この仮想化エンジンを持つストレージ装置に他のストレージ装置をすべて接続し,仮想化する。
この方式では,サーバーからのアクセスは,必ず仮想化エンジンを搭載したストレージ装置を経由する。サーバーが,仮想化したストレージ内のデータにアクセスしようとすると,ストレージ・コントローラ内の仮想化エンジンがデータのありかを瞬時に探し出し,該当する物理ストレージ装置にアクセスする仕組みだ。仮想化エンジンを搭載したコントローラは,内部コンポーネントが2重化・冗長化され,仮想化するストレージ・システム全体の信頼性・可用性を保つ上で十分な対策が取られている。
仮想化エンジンを実装したストレージ装置には,通常のストレージ装置のコントローラと同様に,数百ギガバイト規模の大容量キャッシュ・メモリーを備えている。ここでデータをキャッシングすることにより,ストレージ・システム全体でパフォーマンスを向上できる。
このアプローチは,コントローラが接続可能なシステムであれば,SAN(Storage Area Network)環境だけでなく,メインフレームなど他のシステムについても仮想化の対象にできる。さらに,コントローラが持つさまざまな機能を,仮想化したストレージ・システム全体で利用できる。投資を抑えつつ,高度な運用を実現できるシステムを構築しやすい。もちろん,仮想化本来のメリットである,管理や運用の統合も実現でき,コスト削減に大きく貢献できる。
(2)アプライアンス・サーバー型
SAN環境において,サーバーとストレージの接続経路に,仮想化エンジンを搭載した専用サーバー(アプライアンス・サーバー)を用いる方式が「アプライアンス・サーバー型」である。システム内のストレージ装置をすべてアプライアンス・サーバーに接続して仮想化する。
この方式は,ストレージ・コントローラ型と同様に,サーバーからのアクセスは必ずアプライアンス・サーバーを経由する。ストレージ・システムの信頼性・可用性がアプライアンス・サーバーに依存することとなり,信頼性・可用性を重視する場合には,アプライアンス・サーバーを2重化するのが一般的である。
各アプライアンス・サーバーには,ストレージ・コントローラ型ほどではないが数ギガバイト程度のキャッシュ・メモリーを搭載可能なアーキテクチャになっている。仮想化されたストレージ・システム環境で利用できる機能は,アプライアンス・サーバーのサポート機能レベルに依存する。
(3)スイッチ型
「スイッチ型」は,SAN環境において,サーバーとストレージの接続経路に,ストレージ仮想化機能を持つ専用スイッチを用いる方式である。システム内のストレージを,仮想化エンジンを実装した専用スイッチに接続して仮想化する。この専用スイッチを既に導入済みであれば,仮想化エンジンを追加することでストレージを仮想化できる。
この方式では,ストレージ・コントローラ型やアプライアンス・サーバー型と同様に,サーバーからのアクセスは専用スイッチを経由して目的のストレージに向かう。また,アプライアンス・サーバー型と同じく,ストレージ・システムの信頼性・可用性がスイッチに依存することとなるため,信頼性・可用性を重視する場合には,スイッチを2重化するのが一般的である。仮想化されたストレージ全体で利用できる機能は,スイッチのサポート機能レベルに依存する。
これら代表的な3方式の仮想化機能は,導入の容易性や期待されるサポート・レベルなどを踏まえ,今後も継続的に改善されていくだろう。
|