日立製作所 田渕 英夫

 ビジネス環境が日々変化してゆく中,継続的かつ迅速にビジネス・モデルを変化させることが企業にとってますます重要になっている。そのための多様なデータを蓄積・保存するのがストレージ・システムである。

 サービスの拡大などに伴ってデータが増えるにつれて,企業システムではストレージ装置の台数や容量も急速に増大しているのが実情である。特に近年では,このデータやストレージ装置の増加が,システム構成を複雑化する大きな一因となりつつある。

 しかも,ストレージ装置は一様ではなく,ベンダーや機種が異なれば,性能や機能,価格などの特性も異なる。ストレージの管理者は,システム内に混在し,増え続けていく多種多様で複雑な構成のストレージを管理しなければならなくなっている。これが,システムを管理・運用していく上で,管理コストや投資の増加を招く大きな要因となっている。

 ストレージの仮想化は,『複雑化した物理リソースを論理的に表現することによって,構成を単純化もしくは抽象化する』という考え方である。ストレージ台数の多さや構成の複雑さが招いていた,ストレージ管理・運用の複雑さを解消し,簡単にすることができる。詳しくは後述するが,ストレージの仮想化は,ストレージにかかわるTCO(総所有コスト)の削減に貢献できるのである。

 なお,「ストレージの仮想化」には,上記とは異なる考え方もある。まずは,代表的な3つの考え方について,基本コンセプトを整理しておこう。

「ストレージ仮想化」には3つの考え方

 現在の主流となっているストレージの仮想化は,複数の物理ストレージ装置を抽象化し,「仮想的(論理的)に単体のストレージ装置に見せる」という考え方である(図1左)。物理ストレージ装置の違いを隠ぺいして仮想的に大きなストレージ・プールを作り,個々のストレージ装置にある記憶容量などの限界を,飛躍的に向上させることができる。

図1●「ストレージ仮想化」の代表的な考え方
図1●「ストレージ仮想化」の代表的な考え方
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 もう1つの考え方は,物理的に単体のストレージ装置を,仮想的に複数のストレージ装置に見せることを目的としている(図1中央)。

 一般に,多数のストレージ装置を管理・運用する負荷を削減するために,既存のストレージ群を1台の大型ストレージ装置に統合するケースが多い。サーバー統合の主要な目的と同じである。

 この時,異なる複数の業務アプリケーションがあり,それぞれの処理が互いに干渉しないように,独立した専用ストレージ領域を利用したい場合が多い。しかし,ストレージ装置を単純に統合すると,干渉を起こす可能性がある。

 そこで登場したのが,単体のストレージ装置を論理的に複数の独立したストレージ装置に見せる仮想化である。ストレージ装置の管理・運用を軽減しつつ,システム運用要件も満たせるのだ。

 さらに最近では,仮想化の概念が広がりを見せている。前述した2種類のストレージ仮想化では,ストレージ装置の構成を単数化もしくは複数化する概念であり,仮想化してもしなくても,ストレージ装置の総記憶容量は変化しない。これに対し,ストレージ装置の物理容量に全く依存せず,ストレージ装置の容量を「仮想的に極めて大きく見せる」という仮想化の考え方も台頭してきた(図1右)。


日立製作所 田渕 英夫(たぶち ひでお)
 RAID システム事業部 製品企画部の主任技師。入社以来,ハイエンド・システム向けストレージの製品企画業務に従事。世界中の企業システムやデータセンター内外でユーザーが抱える問題を解決しつつ,社会や個人の生活をさらに豊かなものに変えていくためのストレージのあり方に想いを巡らせている。