DHCPは,身近だがあまり意識することはない。でもDHCPがなくなるとパソコンをネットワークにつなぐのは面倒になる。いったいDHCPは何のためにどんなことをしてくれているのか。Lesson1ではDHCPの役割を説明しよう。

通信にはさまざまな情報が必要

 パソコンがネットワークを利用するには,いろいろな情報をあらかじめ設定しておく必要がある。DHCPは,それらの情報を自動で取得して設定するしくみだ。

 どんな情報を事前に設定しておく必要があるのだろうか。いくつかあるが,一番大事なのはネットワークの中で自分を識別するための「IPアドレス」である。TCP/IP通信では,IPアドレスという住所を使って通信する。そのため,自分のIPアドレスを正しく設定しなければ,そもそもうまく通信することができないのだ。IPアドレスは,製造時にパソコンに割り当てられておらず,接続するネットワークに合わせてネットワーク管理者が割り当てる必要がある。

 IPアドレス以外にも,事前に設定しておくべき情報はある。パソコンは,ルーターという機器に通信の中継を依頼することがある。どのあて先のときにはルーターに中継を依頼するのかを示す情報(サブネット・マスク),依頼するルーターはどこにあるのかを示す情報(デフォルト・ゲートウエイ)などを正しく設定しておかないと,うまく通信できない。

 さらに,「www.nikkeibp.co.jp」といったよく見る名前を指定して通信するには,そのドメイン名という名前からIPアドレスを調べるDNSというしくみを使う必要がある(Part3の「DNS」で解説)。そのDNSのサーバーの場所もあらかじめ知っておく必要がある。

手作業では大変な手間

 これらの情報をすべて手作業で設定するとしたら結構な手間がかかる(図1-1)。

図1-1●パソコンのネットワーク接続を手作業で設定するのは大変
図1-1●パソコンのネットワーク接続を手作業で設定するのは大変
ほかのパソコンとダブらないように管理者から設定情報を割り当ててもらい,それを間違いなく設定する必要がある。

 まずネットワーク管理者から自分に必要な設定情報を教えてもらう必要がある(図1-1の(1))。管理者は,パソコンをつなぐネットワークを調べて,適切な設定情報を割り振る。例えば,IPアドレスはほかの端末とダブらないようにきちんと管理しなければならない。だから管理者は,一般に設定情報の管理台帳を用意している。その管理台帳で使用中のIPアドレスを把握し,空いているIPアドレスを割り当てて記録を更新しておくわけだ。

 管理者から設定情報を教えてもらったユーザーは,受け取った情報を間違えずに設定しなければならない(同(2))。設定を間違えると自分のパソコンが通信できなくなるだけではない。ほかのパソコンと同じIPアドレスを設定してしまうと,ほかのパソコンまで通信できなくなってしまう。

手間を省いて間違いもなくす

 DHCPは,これらの設定作業の大部分を自動化する。パソコン内部でユーザーの代わりに働くのがDHCPクライアント,ネットワーク上で管理者の代わりに働くのがDHCPサーバーだ(図1-2)。

図1-2●DHCPはネットワーク設定を自動化する
図1-2●DHCPはネットワーク設定を自動化する
パソコンをネットワークにつなぐと,パソコンのDHCPクライアントがDHCPサーバーから設定情報を取得する。さらに取得した情報をパソコンに設定してくれる。 [画像のクリックで拡大表示]

 DHCPクライアントは,パソコンがネットワークにつながったときにDHCPサーバーに設定情報を問い合わせる(図1-2の(1))。DHCPサーバーは,管理台帳で空いているIPアドレスを調べ,ほかの設定情報と共にDHCPクライアントに配布する(同(2))。もちろん,配布したあとに管理台帳は更新しておく。

 設定情報を取得したDHCPクライアントは,その情報をパソコンのネットワーク情報として設定する(同(3))。こうしてパソコンはユーザーが設定しなくても通信できるようになるわけだ。

DHCPを使うのが当たり前

 DHCPを使うのには特別な設定はいらない。DHCPクライアントは,ほとんどのOSに備わっている。たいていの場合,パソコンを起動すれば同時にDHCPクライアントも有効になる。

 一方,家庭で使うブロードバンド・ルーターは,初期設定が済んだ状態のDHCPサーバーを備えており,個人ユーザーであればほとんどそのままで使える。企業のネットワークでは,ルーターのDHCP機能や専用サーバーを使うことが多い。こちらは,ネットワーク管理者が自社ネットワークに合わせて設定することになる。