リコー執行役員の沢光司さんは、IT/S本部長の肩書きを持つ。IT/SのSはソリューションのS、IT(情報技術)は業務に対してソリューションを提供するものだというリコーのITへのこだわりだ。

 沢さんご自身は、35年ほど生産や資材、購買分野で活躍した人だ。十数年間、米国とフランスで駐在経験もある。当時は現地でダンピング論争が強く巻き起こっていた。現地での生産性の高さが会社の強みとなっていた証拠だ。ところが、今では、製品の基本部分を中国で生産し、日米欧に出荷。現地の生産プロセスのなかでユーザーニーズに合わせた詳細仕様を作りこむ。生産体制が、単独の役割からグローバルな連携の下で行われるようになり、この全体感が分からないとIT/Sは進まない。よって沢さんのように業務畑で豊富な知識を持つ人がITの推進役となっている。

 リコーグループでは、2001年のIT投資に比べ、M&A(企業の合併・買収)によるグループ拡大と基幹業務システムの統合のために、年間投資額が約2倍に膨れ上がっている。インフラ以上に構造改革に投資を行っている。やり方も、業務をシステムやテクノロジーで解決するという考え方から、業務そのものの改革があって初めてシステムに落とせるという考えに変わってきた。IT/Sは、事業構造改革の狙いを定めた業務改革なのだ。

 沢さんはIT/Sにもリコーのものづくりの精神を取り入れたいと思っている。現在のリコーは、M&Aの成果が上がり、生まれも育ちも違う人たちが、画像情報分野で力を合わせている。このグループの総合力をガバナンスするのが、まさにIT/ Sの役割なのだ。システムにおいても、大発明よりも地道に色々なものを組み合わせていくことが大切。そのためには、個々のKPIや施策がどのように実成果に結びつくかのつながりを明らかにして、プロジェクトオーナー自らが刈り取りを行い、その効果創出状況を共有することが大切だ。

 十分に寝ているとおっしゃる沢さんも、IT/Sの業務は時々暗いと思う。以前は、機種が出るという単純な喜びがあった。成果の区切りだ。しかし、IT/Sには終わりがない。かなり先のことを見ながらオペレーションの効率を上げる必要がある。終わりのないものづくりには、適時適切なビューポイントを持つことが大切、沢さんの言葉である。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA