インターネットの実体は,いくつものプロバイダ同士が接続し合って出来上がったネットワークである。おのおののプロバイダは,ルーターを使って自社のネットワークを構築している。インターネットは,プロバイダのネットワークがつながり合った,巨大なルーターのネットワークということになる(図4-1)。

図4-1●プロバイダ同士がやりとりする経路情報
図4-1●プロバイダ同士がやりとりする経路情報
IPパケットを転送する経路を決めるのは,それぞれのプロバイダが管理する経路情報である。プロバイダをまたがってIPパケットを中継できるようにするため,プロバイダ同士は互いに経路情報をやりとりしている。 [画像のクリックで拡大表示]

 プロバイダは世界各国にあり,各プロバイダは海底ケーブルなどを通じて相互につながっている。米国がインターネット発祥の地であるという背景から,米国の大手プロバイダ群(Tier1と呼ばれる)を中心に,世界中のプロバイダが相互接続している。

IPパケット転送のカギは経路情報

 アクセス回線からプロバイダまで道に迷わず旅してきたIPパケット。しかし,プロバイダに入ると,途方に暮れてしまうかもしれない。というのも,あて先IPアドレスに示された住所が,世界の隅々まで広がるインターネットのどこにあるのかを見つけなければならないからだ。このIPパケットを目的地まで運んでくれるのがルーターになる。

 ルーターがIPパケットの転送先を決めるのに使うのが「経路情報」と呼ばれる情報である。経路情報は,プロバイダ単位で管理されている。IPパケットの送信元とあて先が同じプロバイダの配下にあれば,そのプロバイダの経路情報だけでIPパケットは転送されていく。また,送信元とあて先が別々のプロバイダにある場合,プロバイダ間でIPパケットを転送できるように,プロバイダ同士は経路情報を交換している。

二つのタイプのネットワーク構成

 日本国内の大手プロバイダは,自社で回線を保有する「キャリア系プロバイダ」と,保有していない「非キャリア系プロバイダ」の2種類に大きく分けられる。キャリア系と非キャリア系では,IPパケットが旅する道すじ,つまりネットワークの物理的な構成も異なる(図4-2)。

図4-2●プロバイダのネットワークの物理構成
図4-2●プロバイダのネットワークの物理構成
プロバイダのネットワークは,自社で光ファイバ回線を持つ「キャリア系」と,自社で光ファイバを持たず,ダーク・ファイバや他社の回線サービスを利用する「非キャリア系」で大きく異なる。
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 NTTコミュニケーションズ(OCN)やKDDI(DION)といったキャリア系プロバイダのネットワーク構成は,図4-2の上のようになっている。災害などに備えて,大阪と東京にそれぞれ2カ所のセンター拠点(NOC)を設け,それらを数十Gビット/秒の光ファイバ回線で結ぶ。さらに,それぞれのNOCからは,各地方のPOPをつなぐ回線が延びている。つまり,同じプロバイダ内を旅するIPパケットは,東京か大阪のNOCを経由する格好になる。

 キャリア系プロバイダは,バックボーン回線の伝送技術にSDH/SONETを利用している。SDH/SONETは,障害を検知して,即座にバックアップ回線に切り替える機能を備えているので,障害に強いからだ。

 一方の非キャリア系プロバイダは,図4-2の下のように,東京一極集中型の構成を採る。例えばNECの「BIGLOBE」の場合,東京近郊に複数の拠点を設け,メトロ・イーサネットでつないでバックボーンを構成する(写真4-1)。自社で運用するのは,この部分だけ。地方からのトラフィックは,アクセス回線事業者に東京まで持ってきてもらうか,他の回線事業者のサービスを利用して東京に運んでくる。こうしたプロバイダを旅するIPパケットは,どこに行くにも必ず上京する格好になる。

タ写真4-1●プロバイダが使っているルーターイトル
写真4-1●プロバイダが使っているルーター
NECのプロバイダ・サービス「Biglobe」で使われているルーターやスイッチ。10Gビット・イーサネットで東京近郊にメトロ・ネットワークを構築している。