PC端末内にハードディスクを搭載せず,データを一切保存させない「シンクライアント」に注目が集まっている。

 アプリケーションやデータをサーバー側で一括管理するシンクライアントという概念自体は古くからあり目新しくはない。ここにきて再度注目が集まったのは,情報システムを取り巻く環境が一変したためである(図1)。

図1●状況の変化で注目集まるシンクライアント
図1●状況の変化で注目集まるシンクライアント
2005年4月に個人情報保護法が完全施行されてから約1年。ユーザー企業の情報漏洩に対する意識が大きく変化し,データを保存する機能を省いた「シンクライアント」に注目が集まるようになった
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表1●国内大手ベンダーが提供するシンクライアント端末
表1●国内大手ベンダーが提供するシンクライアント端末
デスクトップ型の最新モデルを抜粋して掲載した(液晶一体型やノートPC型を除く)
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 大きな影響を与えた変化の一つが,2005年4月に完全施行された「個人情報保護法」であろう。同法自体というより,同法が施行されたことで新聞やテレビなどのマスメディアが情報漏洩事件を頻繁に取り上げるようになったことが大きい。たとえ個人情報が暗号化されていて,情報の提供元である顧客に実害が発生しなくても,「情報を漏洩した」という事実が報道されれば企業の信用を失いかねないためだ。

 それに対し,ハードディスクを搭載しないシンクライアントは,「端末の紛失や盗難によりデータが漏洩する危険性がない」(シンクライアントの導入を決めたスルガ銀行 品質マネジメント部 システム審議役の吉野裕志氏)という安心感の高さがある。

 需要が増したことで,ベンダー各社は新技術を搭載した製品群を相次ぎ投入した(表1)。1990年代には後述する「サーバー・ベース」方式が主流だったが,その後シンクライアントの実現方式は多様化している(図2)。その仕組みを理解しておかなければ,要件にマッチした製品を選ぶのは難しい。次回から,シンクライアントの主要な実装形態と選択指針,活用法を事例を交えて説明しよう。

図2●シンクライアントの実現方式が多様化
図2●シンクライアントの実現方式が多様化
Windows Terminal Servicesの機能などを利用した「サーバー・ベース」方式の弱点を補うため,「ブレードPC」方式や「ネットワーク・ブート」方式などが登場。シンクライアントの実現方式が多様化した