斎藤 槙
ASU International社代表


 今回は環境の話をします。市民の環境配慮度を日米間で比較すると、断然日本人の方がエコ・コンシャスだと思います。

 日本は国土が狭く、資源がない国だからと言われればそれまでですが、「コタツ」に象徴される省エネ文化は世界に誇れると思います。あの小さな空間に4人分の足がささっているのですから!日本が世界で一番多く環境管理の国際規格 ISO14000を取得している国になったのも無関係とはいえないのではないでしょうか。

 翻ってアメリカ。人が居ても居なくても全ての部屋が暖まるセントラルヒーティングシステム。あまり進む様子のないゴミの分別。生活レベルに見る環境配慮度から両者の考え方の違いがはっきり見えてきます。しかし、アメリカの「多様性」はそう簡単に両者の違いを結論づけてはくれません。

 環境を思う気持ちが人をここまで過激な行動に駆り立てるのか?と驚く事例があるのもアメリカです。2003年8月28日に報道されたELF(Earth Liberation Front) による犯罪的な行動を通じて環境保護をアピールするエコ・テロリズムはその一つの例といえます。ELFは、スポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)の排ガス が環境破壊の原因になっていると主張し、人気車ハマーの販売店を放火するという事件を起こしました。

 エコ・テロリズムの2大プレーヤーのもう一団体として知られるALF(Animal Liberation Front)は動物保護団体ですが、この2団体は96年以降だけでも600件を超える過激な運動を繰り返しており、その被害総額は4300万ドルを超えるとFBIの報告書にあります。

 グリーンピースもセンセーショナルな行動で環境保護をアピールする国際NPOとして日本においてもよく知られています。しかし、最近は企業とのコラボレ ーションも積極的に展開しており、時代はWin-Win(皆がハッピー)が主流になりつつあります。環境保護の大切さを効果的に伝えたいのであれば、被害者が出るようなやり方やよりも、政府や企業、市民たちと一緒に行動する方がずっと効率的だと気づきはじめたようです。

“Win-Winな発想”の環境ビジネスが出現

 さて、アメリカの多様性を語るときに外せないのが、“Win-Winな発想”を反映したユニークな環境ビジネスです。その例を一つ紹介するとすれば、私はアースシップ・バイオテクチャを挙げたい。

 先日、ニュー・メキシコ州にある本社を尋ねる機会がありました。なんと「廃材で家作り」をテーマに、古タイヤ、空き瓶、空き缶で家の壁を作り、ソーラ ー・パネルと風力で電力をまかない、雨水を生活用水として集め、廃水で植物 を育てながら同時に浄化するシステムを構築した家を提供しています。ゴミゼロ工場ならぬ、ゴミゼロ住宅!同時にリサイクルも実現しているのです。

 「一体 どんな家?」と首を傾げている方は、是非、体験宿泊してみてください。びっ くりするほど素晴らしい家です。環境保護プロジェクトを手掛けている人、環境の勉強をしている人、環境会計 に取り組んでいる人・・・世界には、自然環境をめぐって様々な人や組織が活動していますが、その基本はやっぱり半径5メートルの環境配慮から。そう、コタツを囲む感覚!要は生活レベルでの省エネやリサイクルから始まるのです。そして誰もがハッピーになれる“Win-Winな発想”をどう形にするかにかかっていると思う今日この頃です。

(本記事は、ASU International社が配信しているメール・マガジン「アメリカ発 企業の社会責任ニュース 第16号 2003年8月」を基に、加筆修整したものです。)


斎藤 槙(さいとう まき)
東京都生まれ。豪州および米国にて7年間生活。聖心女子大学卒業後、広告代理店の電通に入社。マーケティング、PR、コーポレート・コミュニケーションを5年に亘り担当した後、NY・コロンビア大学国際関係大学院にて修士号取得。専攻テーマは企業の社会責任(CSR)。その後、NYを拠点とし、企業の社会責任度調査・格付けを行うシンクタンクのThe Council On Economic Priorities、世界労働規格SA8000を認定する組織SAI(Social Accountability International)のコンサルタントとして2年間勤務したり、インターネットを通じて、企業、NPO、市民をつなぐことを目的としたドット・コム企業の共同設立者として1年活動。現在は、LAにてASU
International社
代表・CSRコンサルタントを務める。私生活では、フィリピンとケニアの子供たちの支援活動を行っている。