ITを活用する健康ビジネスには、スポーツや食品業界だけでなく、ITの専門家であるコンピュータ・メーカーやシステム・インテグレータも注目している。富士通は100%子会社を通じてアウトソーシング業務に、インテグレータ最大手のNTTデータは生活習慣病予防を目的としたネット・サービスを提供している。

ベストライフ・プロモーション
トータルで健康情報を管理

 その一例が富士通だ。100%子会社であるベストライフ・プロモーションは、健保などの業務を請け負い、健診内容に合わせたフォローや保健指導などをアウトソーシング・サービスで提供する。

 同社は各種の健康診断や医療機関による診察結果などの情報を一元管理。さらに遠隔地にいる被保険者や扶養家族を含め、病気の予防や対応策などをアドバイスする(図1)。

図1●富士通子会社のベストライフ・プロモーションは健康情報サービスのデータセンターを目指す
図1●富士通子会社のベストライフ・プロモーションは健康情報サービスのデータセンターを目指す
まずは富士通社員とその家族を含めた30万人を対象のサービスをスタートさせ、その後一般顧客へのサービスを開始する
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 効率的にサービスを提供するために力を入れているのが、保健師や看護師、管理栄養士などを採用するコンタクトセンターである。顧客の健診内容などを参照しながら、電話やメールなどを使ってアドバイスする。アドバイスにあたっては、全国の診療所や医療機関、薬局と連携する。将来的には、フィットネスクラブや外食産業、健康食品販売店などと連携を目指す考えだ。

 ベストライフの設立は07年2月。08年4月をメドに全国で30万人の富士通社員と家族にサービスを開始する。その前段階として、まず07年末までに富士通社員とその家族を合わせ400人を対象にした実証実験を始める。

 同社の齋藤稔社長は「生活習慣を変える(行動変容)ために、どのような情報の提供方法が有効なのかを見極めたい。まず富士通グループの社員向けサービスを軌道に乗せて、ノウハウを社内に蓄積したい。グループ外への展開はそれからだ」と話す。

NTTデータ
ウオーキング脱落率5%を維持

 NTTデータは、10年前から「行動変容」に着目した「クリエイティブヘルス三健人」というサービスを手掛けてきた。生活習慣病を予防するために、食事や運動の管理をサポートすることが目的である。現在は12団体と契約を結び、会員数は約3万人だ。

 クリエイティブヘルス三健人では専用Webサイトから、問診形式で自分の健康状態や目標管理に関する情報などを入力。入力したデータに合わせて生活習慣病予防のための計画を表示し、電子メールなどで進捗状況を確認する(図2)。

図2●NTTデータはオムロンヘルスケアと共同で、メタボリック対策サービス「クリエイティブヘルス三健人」を展開
図2●NTTデータはオムロンヘルスケアと共同で、メタボリック対策サービス「クリエイティブヘルス三健人」を展開
12団体と契約し、約3万人の会員を形成する
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 06年5月に始まった最新版では、USB経由でデータを出力できる歩数計(オムロンヘルスケア製)を使って、最大2週間分の歩数データをWebサイトに転送。歩数に応じたポイントを利用者が取得する。ポイントは景品に交換することができる。

 同社の窪寺健 ヘルスケアイノベーション事業部長は「サービスを開始した98年当初は、ITを使った健康管理であることに対する評価こそ高かったものの、入力が面倒だという問題があった」と話す。ポイント制のインセンティブを取り入れたのは、これを解消するのが目的だ。その効果は高く、3カ月後の脱落者が5%という状態を維持している。このほかにも、学術的な内容を読みやすくするためイラストなどを多用するなどしてきた。

 窪寺事業部長は「インセンティブによって脱落率が下がっただけでなく、これまで健康のために何もしていなかった人がウオーキングを始めるなど、行動変容の事例が確実に増えている」と語る。NTTデータは、同社が展開する「ヘルスデータバンク」などとクリエイティブヘルス三健人のサービスを組み合わせていく。健診結果や医療機関のデータと連携したより幅の広い健康管理サービスが提供できるようになるという。

健康機器のプロトコル標準化が加速

 ネットワークを使った健康機器の増加につれ、機器の相互運用性を高める取り組みも活発になってきた。06年6月には、米インテルを中心に、健康機器標準化を進めるNPO(非営利団体)「コンティニュア・ヘルス・アライアンス」が発足している。

 同アライアンスの目的は、体組成計や血圧計などの家庭用健康器具のほか、フィットネス機器、、センサー機器のネットワーク化に必要な仕様を策定すること。07年末までに、ネットワーク接続についての標準仕様をガイドラインとして策定する計画である。

 これを受け、08年の早い段階で、ガイドラインに沿った商品が登場する可能性がある。インテルの石川真澄デジタルヘルス事業部技術標準部長は「病気を予防する健康管理、慢性疾患患者を見守る管理、高齢者をサポートする管理の3つのモデルケースを想定して開発を進めている」と話す。

 07年7月時点で同アライアンスには125社を超える企業が加盟する。国内では、エー・アンド・デイ、コナミS&L、松下電器産業、シャープ、NTTグループ、タニタ、テルモ、東芝コンシューママーケティングなどが参加する。