●SaaSでもフルスクラッチの業務アプリケーションを提供
●ユーザーが不要と判断した機能はお金を取らない
●技術者がきっちりと対価をもらえる仕組みを作る

 中堅・中小ユーザー企業向けのソリューションとして脚光を浴びるSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)。SaaSといえば、ソフトウエアメーカーが特定の機能を備えたパッケージをオンデマンドで提供するケースがほとんど。だが、こうしたやり方とは一線を画す格好でSaaSビジネスに参入しているソリューションプロバイダがある。「いづも」だ。三菱商事系IT会社であるアイ・ティ・フロンティアと、いづもの澤田研一社長が立ち上げたベンチャーのcgios technologiesが共同で2006年7月に設立した会社で、10人弱のエンジニア集団である。

 いづもが手掛ける「.ismoサービス」の特徴は、フルスクラッチの業務アプリケーションをSaaS形態で提供することだ()。一見、業務アプリケーションの運用アウトソーシングを手掛けているだけにも思えるが、そうではない。

図●業務アプリケーションを SaaS形態で提供する「 .ismoサービス」の概要
図●業務アプリケーションを SaaS形態で提供する「 .ismoサービス」の概要
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 .ismoサービスのビジネスモデルはあくまでSaaSである。ユーザー企業が求める業務アプリケーションの開発にかかる初期費用は、いづもが全額負担する。さらにサービス利用後に発生する機能追加・変更にかかる費用も、ユーザー企業から取らない。「いつでもサービスの変更が可能」は、社名の由来の一つにもなっている。

 いづもが徴収するのは、アプリケーションの月額利用料金だ。業務アプリケーションが備える機能数や管理するデータベースのテーブル数、アクセス数などに応じて料金を決める。

顧客のIT投資リスクを減らしたい

 「市販の業務パッケージよりも、自社固有のアプリケーションを作りたいというユーザー企業のニーズは根強い。その半面、運用・保守の手間を省きたいユーザー企業も増えている。だから、自由に設計できる業務アプリケーションをSaaS形態で提供すれば、必ず受け入れられるとの確信があった」。いづもの澤田社長は熱く語る。

澤田研一●いづも社長
澤田研一●いづも社長
写真:皆木優子

 .ismoサービスが提供する価値について澤田社長は、「ユーザー企業のIT投資リスクを極小化することだ」と言う。具体的には、 「業務アプリケーションの開発では、不要な機能を作るなど無駄な費用がかかるといったリスクが付きまとう。こうした点に対するユーザー企業の不安を取り除くことにこだわり、料金体系に工夫を凝らした」(澤田社長)。

 従来の業務アプリケーションの開発においては、「作ってみたが業務を効率化できなかった」「多くの機能を盛り込みすぎた」「どんな機能が必要なのか分かっていなかった」といった状況に陥ることは少なくない。

 .ismoサービスでは「作ってみたものの、ユーザーが使わない」機能については、料金を取らないようにしている。最初は使っていても不要になった機能を削減すれば、その分の月額料金を減らせる。

 澤田社長には、IT業界の慣習を変えたいという強い思いもある。「業務アプリケーション開発に参加したエンジニアの人月単価で課金するというのではなく、高い生産性のエンジニアがきっちりと対価をもらえるような業界に変えたい」と澤田社長は語気を強める。

 既存の開発スタイルでは、ITベンダーが生産性の高いエンジニアと低いエンジニアを“抱き合わせ販売”することが少なくない。「人月課金が横行している以上、売り上げを減らすような技術上のイノベーションを起こすことなどできない」(澤田社長)。

 こうした業界慣習に風穴を空けようと、.ismoサービスでは、「優秀なエンジニアによるアジャイル開発」(澤田社長)をポリシーとしている。しかも、人だけに頼るのではなく、業務アプリケーションを短期開発するためのツールも用意した。それがWebアプリケーション機能を備えたミドルウエア「cgios」である。

 cgiosは澤田社長が大学生時代だった1999年から2002年までに独自で開発したもの。「cgiosは、アプリケーションの機能追加・変更のパターンを類型化し、その対処方法を体系化した『仕様変更工学』の思想に基づいて開発したもの。市販の開発ツールを利用するよりも、格段に素早くアプリを作れる」。澤田社長は自信を見せる。

 優秀なエンジニアと開発・変更が容易なミドルウエアを用意したとはいえ、初期開発や機能追加・変更にかかる費用を取らず、月額料金だけでビジネスになるのかどうか。現在.ismoサービスは、三菱商事が活用しており、「既に黒字化を達成している」(澤田社長)と胸を張る。