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記者のつぶやき

“21世紀のプログラムを作る君たち”に伝えたかったこと

高橋 信頼=ITpro 2007/10/05 ITpro

 個人が成し遂げられることはどんどん大きくなっている。常識は短期間で変わる。今貴重なものは,やがて過剰になる。日本市場を世界からへだててきた日本語の壁はなくなろうとしている。ネットの向こうにいる仲間を信じよう---「U-20プログラミング・コンテスト」という,20歳以下を対象にしたコンテストに参加した若い技術者たちに,伝えたかったことだ。

 ここ3年ほど,このコンテストの審査会にオブザーバという名目で立ち会わせてもらっている。なにしろ審査員のひとりであるまつもとゆきひろ氏が「私が応募しても入賞できないかもしれない」というレベルの高さである。思わず唸る完成度の高い作品あり,思わず吹き出してしまうユーモアのある作品あり。記者は好きに意見だけ言って審査の責任は負わないという美味しい役目でもあり,こんなに無料で見させていただいていいのだろうかというくらい楽しませていただいている(関連記事)。

 ところで今年の審査会で,突然何か話をしてほしいと頼まれた。そこでとりとめのない話をしたのだが,何も準備をしていなかったことと,時間がなかったこともあり,あとからこんなことも話しておけばよかった,こんなことも言っておけばよかったと後悔することしきりである。そこでこの場を借りて,伝えたかったことをまとめてみたい。

 もちろんまつもと氏でも入賞できないコンテストの受賞者に対し,偉そうに高説を垂れる資格はない。ただ記者は仕事柄,何年も多くの優れた技術者の方々にお話をうかがってきた。そこで手渡されたものや感じたことを伝えることができればと思う。コンテストで,審査員のひとり,ミラクルリナックスのCTO 吉岡弘隆氏が参加者に「21世紀のプログラムは君たちが作る」というエールを送っていたことが印象に残っている。まさにそのとおり,これからのITを作っていく技術者たちだ。記者の話のうち何か一つでも,“21世紀のプログラムを作る君たち”のヒントになれば,とてもうれしい。

個人で成し遂げられることはどんどん大きくなっている。

 会員1000万人を超えるSNS,mixiは現ミクシィCTOのバタラ・ケスマ氏が最初1人で開発したシステムだった(関連記事)。9カ月で会員が300万人以上になったニコニコ動画がサービス・インした時の最初の動画プレイヤーは,ドワンゴの戀塚昭彦氏が3日で作った(関連記事)。Googleもサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジという2人の大学院生が作った検索エンジンだった。ITProでも利用している「はてなブックマーク」を作ったはてなCTOの伊藤直也氏は「本当の意味で世界を変えるのはコードだけ」と言う(関連記事)。一人の技術者が成し遂げられることは,かつて考えられないほど大きくなっている。

“変なソフト”を作ろう。

 「他人と同じことをする」ことの価値が,ITの世界ではどんどん下がっている。インターネットではデータもプログラムもコストゼロでコピーできる。昔は欧米のマシンのソフトと同じ品揃えを日本のマシンで実現するために,日本のメーカーは同じ機能を持つソフトを自社のマシン向けにせっせと作った。しかし独自アーキテクチャのマシンはごく一部を除けばもう存在しない。かつては買うと高いから自分で作ったりもした。しかしオープンソース・ソフトウエアがふんだんに存在する現在,そんな状況はない。

 価値を持つものを作るには,どこにもないものを作るしかない。他の人には最初は理解されず,変なソフトと言われたら,それはどこにもないことの証だ。自慢に思おう。記者も昔はずいぶん変な奴と言われたけれども,そのことを誇りに思っていれば,もしかしたら今頃はもっと偉くなっていたかもしれない。

常識は短期間で変わる。

 7~8年ほど前,無料のソフトウエアでお金を扱うシステムを作るなんて,ありえないと皆思っていた。だれが責任を持つのだと。でも今は大手銀行の基幹システムでLinuxがごく当たり前に使われている。東京証券取引所の次期システムはLinuxを採用することが既に決まっている。LinuxだけでなくオープンソースのDBMSなんかも金融システムで多数使われている。

 ある時点での非常識は,あっけなく常識になる。ITの世界の話だけではないかもしれないけれど。

今貴重なものは,やがて過剰になる。

 ITの歴史に特徴的なことは,足りないものは,やがて過剰になるということだ。かつてメインフレームの時代(30年ほどまえ)にはCPUが貴重で,プログラムを実行するために人間が列を作って並んだ。パソコンの時代になって人間が1台のCPUを占有できるようになり,CPUが人間の指令を待つようになった。今は,遊休CPUを有効に活用するために仮想化技術によってサーバーを集約したりといった工夫を重ねている(関連記事 上武大学大学院教授 池田信夫氏 インタビュー)。

 ソフトウエアもサーバー向けなら数千万円,メインフレームなら数億円という値段がついていことは珍しくなかった。しかし今はオープンソース・ソフトウエアだけで会計システムやERPまでできてしまう。

 また数年前はネットワークが貴重で,通信代を節約するために近隣のコンピュータがバケツリレー方式でデータを送信したり,回線をつないでいる時間を短縮するために圧縮データをダウンロードしてすぐ切断したりしていた。しかし今は,携帯電話でさえパケット定額サービスで,ネットワークのコストを意識することなく使用している。

 足りないものが過剰になる理由は,希少なものは高価に売れるので集中的な投資が行われるからだ。ITでは,技術さえ開発されれば供給弾力性が高い(複製コストが低い)ので,今度は一転して過剰になる。このサイクルを予測し,今貴重なものが安くなり,ジャブジャブに使えるようになれば何ができるか考えるのも面白い。

日本市場を隔離してきた壁は消えようとしている。

 かつては,欧米で人気を得ているものの日本語版を作ることがビジネスになった。WebのサービスでもmixiやYahoo!オークションは日本国内で英語圏とは別の市場を獲得した。

 しかし,昨年から日本でも普及し始めたYouTubeや,今年から利用者が増えてきたTwitterは,英語メニューのまま日本のユーザーを獲得している。もはや,日本語の壁というのはなくなってしまったのかもしれない。

 でも,これは考えようによっては,日本から世界へ出て行くための壁も低くなったことを意味しているのかもしれない。日本の携帯電話機が海外で戦えていないのは,中途半端に大きい日本市場に安住してしまったためだと言われる。これに対しSamsungは韓国市場が小さいため最初から世界市場を目指し,世界市場での有数なプレイヤーになった。

 それは決して楽な道ではないとは思う。けれども,どうせ日本に閉じこもっていることができないのなら世界に挑戦しよう,という人がいれば,ITproは一生懸命応援したい。

ネットの向こうにいる仲間を信じよう。

 普通,モノは使えば減ってしまうけれども,ソフトウエアは使われれば使われるほど価値が増す稀有な存在だ。使われることでノウハウがたまり,使いこなす人が増えてくれば,「そのソフトでできること」が広がるからだ。作ったソフトはネットに載せて,多くの人に使ってもらえば,きっといいことがあると思う。

 そして,できればソースコードも公開してみよう。こうするともっとよくなるよ,というアドバイスをくれる人がいるかもしれないし,組み合わせて使うことのできるソフトを書く人が出てくるかもしれない。

 審査員のまつもと氏が公開したRubyも,公開したことで多くの人がそれを使ってプログラムを書き,そのことがRubyをますます便利にした。ソースコードも公開したから,いろんな人が他のOSに移植したり,バグを直したりと,どんどん使い勝手を高めていった。

 こんな汚いプログラムを人に見せるのは恥ずかしい,という気持ちもよくわかる。でも一般に,有意義なプロジェクトほど,そういった重要なプロジェクトの中心にいる人ほど,ニューカマーに親切なように思う。例えばLinuxカーネル開発プロジェクトにはKernel Newbieという,ニューカマーに参加のためのノウハウを教えてくれるサイトがあって,そのホームページに行くとおしゃぶりをくわえたペンギンが出迎えてくれる。みんなに求められているプロジェクトにはやるべきことがたくさんあって,常に新しい力を求めているから新人を歓迎する。新人を弾き出したりお山の大将になったりする暇はないということだろう。

 もちろんネットには人を非難したり,技術を悪用してクラックする人もいる。けれどもどんな言動が非難されるのかという基準はリアルな世界と変わらない。クラックを防ぐソフトを開発したり,クラックされないようにする方法を教えてくれる人の数は,不正な行為を働く人たちよりはるかに多い。

 一人でできることが広がっている,と言ったけれども,同時にソフトウエアは孤独に作るべきものでもなくなっている。ネットの向こうにいる仲間を信じよう。もちろんリアルに近くにいる仲間も。そうすれば,成し遂げられることは何倍にも何十倍にもなる。冴えたデザインを作ったり,たくさんのアクセスが来るようになったときにサーバーや回線を用意し,ビジネスにつなげるためには,技術者だけでなく様々なスキルを持った人たちが必要だ。まつもと氏がある時に言ったフレーズを,記者はよく思い出す。「Rubyの真髄は信頼」---という言葉だ。

何よりも大事なのは…

 そして何より大事なのは,どんな仕事でもそうだけど,自分の仕事が好きだと,楽しいと思えることだと思う。審査会で自分たちの作品を誇らしげに,嬉しそうに話す君たちを見ていると,それについては何も言うことはないようだ。21世紀を担う技術者の中から,素晴らしい普及するソフトウエアやサービスがたくさん出てくることを願っている。そしてITproは,そんな君たちの役に立ち,力づけることができる場所でありたいと思う。

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