西日本の通信事業者は毎年夏,クマゼミの産卵に頭を悩ませている。光ファイバ・ケーブルに卵を産み付けられ,通信障害が発生しているためだ。このためNTT西日本は,新設時にセミ対策に工夫を凝らしたケーブルを採用するようになった。セミの習性に着目して産卵を防ぐ工夫を凝らした新型ケーブルも登場した。

 毎年7月から9月ころ,西日本地域では数百本もの光ファイバ・ケーブルが意外な原因によって損傷している。クマゼミの産卵である。

防護壁で覆い心線を守る

写真1●光ファイバ・ケーブルに産卵しているクマゼミ
写真1●光ファイバ・ケーブルに産卵しているクマゼミ
(写真はNTT西日本提供)

 主に西日本に生息するクマゼミは,枯れ木に産卵する。その習性が災いし,ケーブルを枯れ木と勘違い。ケーブルに産卵管を突き刺して,光ファイバの心線を傷つけてしまい,通信障害が発生するようになった(写真1)。

 NTT西日本では2005年,2006年にそれぞれ約1000件ずつ,電力系通信事業者のケイ・オプティコムも2006年に約200件の被害を受けた。2007年も同程度の被害が見込まれるという。

 このため通信事業者各社はケーブルの改良に取り組んでいる。例えばNTT西日本は2004年以降,ドロップ・ケーブルを2回改良してきた(図1)。


図1●クマゼミの産卵による心線の断線対策を施した光ファイバ・ケーブルの断面
図1●クマゼミの産卵による心線の断線対策を施した光ファイバ・ケーブルの断面
NTT西日本は光ファイバ心線を取り出すための引き裂き用ノッチをなくし,さらに防護壁を追加したケーブルを使うようになった。一方,タツタ電線が4月から販売する「せみタフ!」は被覆材を見直した。
[画像のクリックで拡大表示]

 まず,光ファイバの心線を取り出しやすくするためのノッチ(溝)をなくした。クマゼミがノッチを利用して産卵管を突き刺していたためだ。2006年からはさらに,心線の周りを樹脂製の防護壁が覆う構造にした。

 NTT西日本によると,新設時はすべて改良ケーブルを採用しているという。FTTHの新規契約数の伸びと比べて損傷の件数は増えていないことから,一定の効果を上げているようだ。

生木と勘違いさせて産卵を防ぐ

 一方,タツタ電線が4月に通信事業者向けに発売した「せみタフ!」は,被覆材を変えた。一般のケーブルがポリエチレンを使うのに対し,ポリウレタンを採用した。

 これは,「クマゼミは生木には産卵しない」という習性に着目したもの。生木に近い感触の素材としてポリウレタンを選んだ。「3年間のフィールド試験では,クマゼミによる損傷が全くなかった」(タツタ電線)。

 ケーブルにノッチがあり,心線が取り出しやすい。コストもほぼ同じという。ポリウレタンはポリエチレンよりも高価だが,セミ対策の加工を施す手間が省けるためだ。