通信ネットワークを用いた放送サービスについては世界中で導入機運が高まっている。普及への最大のポイントは社会インフラとしての放送サービス品質を担保できるかどうか。既存の放送サービスを超える新しいビジネスモデルを構築することも必要である。

 ブロードバンド・ネットワークを用いたキラー・アプリケーションの候補として,放送サービスに対する期待は大きい。世界中で多くの議論がなされ,トライアルが始まっている。

 ここ数年,米国ではCATV事業者による電話サービスの提供が本格化し,ビデオ・オンデマンド(VOD)も始まった。いわゆるトリプルプレイ・サービスが提供されることで,通信事業者にとっては大きな脅威である。通信事業者はその対抗手段としての映像系サービス,いわゆる「IPTV」サービス提供の検討を開始し,AT&Tやベライゾンといった大手通信事業者も既に商用サービスを開始している。

 一方,アジアや欧州でも衛星放送やCATVの受信が困難な地域への多チャンネル放送の提供を手始めに,IPTVサービスの提供が順調に始まっている。日本では電気通信役務利用放送制度の導入により,大手通信事業者を母体とする各種のIPTVサービスが開始されている。だが,地上波テレビ放送の再送信を含めた本格的IPTVサービスの提供については,総務省の研究会などでの議論を踏まえ,NTTの「NGNトライアル」での実証実験が開始されたところである。

 IPTVについては技術面と共に,ビジネス面でも様々な課題が残っているが,今回はIPTVの国際標準化の動向,NGNによるIPTV提供の仕組み,さらにNGNが可能とする新しい放送・通信連携のビジネスモデルについて解説する。

始まったITU-Tでの標準化

 前述のようにIPTVはCATVとの競争のために導入されることなどから,NGN(次世代ネットワーク)の導入を待たずして,サービスが開始されている。しかし,NGNのキラーサービスとしての期待が高く,NGN標準のリリース2での主要テーマになっている。

 図1にリリース2のサービス・サイドから見た検討項目を示すが,例えばトランスポート機能の網能力の観点ではQoSサポート付きのマルチキャストが盛り込まれている。ところで,IPTVはネットワークだけにとどまらず,端末やホームネットワークを含めた総合サービスである。従って,ITU-Tのスタディー・グループ(SG)をまたがる議論になることから,昨年本格的な標準化作業開始に備えて事前の検討を進めるFG-IPTVが結成された。勧告化に当たっての課題整理,枠組みつくりが進んでいる。

図1●NGNリリース2における主要検討項目
図1●NGNリリース2における主要検討項目
IPTVも重要なアプリケーションとして課題に上がっている。
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 FG-IPTVではIPTVを以下のように定義している。

 「IPTV is defined as multimedia services such as television/video/audio/text/graphics/data delivered over IP based networks managed to provide the required level of QoS/QoE,security,interactivity and reliability.」

 ここでは,いわゆるベストエフォート網でのIP技術を活用した映像サービスは対象とせず,従来の地上波テレビ放送などが担ってきた社会インフラとして一定の品質を担保できるサービスであることを明確に述べている。

FG-IPTVでの検討項目

 FG-IPTVの検討範囲を表1に示すが,サービス全体の標準化を検討対象としているため,図1に見られるNGNリリース2の検討視点に比べてより広範囲の標準化活動を指向している。例えば品質にかかわる項目である「QoSと性能」に関しては,QoE(quality of experience)という概念は後述する操作性に関連した品質条件を示すものであり,サービス全体としての品質を保証しようとしている。

表1●ITU-TのFG-IPTVで議論されている項目
表1●ITU-TのFG-IPTVで議論されている項目
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 FG-IPTVでの検討活動は本年7月に完了の予定。その結果はITU-T SG13の活動に組み込まれ,本格的な標準化作業が開始される見込みである。

IMS適用型と非IMS型に分かれる

 FG-IPTVではIPTVシステムを以下の通り,大きく三つに分類して議論を進めている。(1)NGN上でIMSを活用するIPTVシステム,(2)NGN上で提供されるがIMSとは独立にサービス提供するIPTVシステム,(3)NGNではない既存ネットワーク上でサービスを提供するIPTVシステムである。図2はFG-IPTVにて今後の議論のベースとなるIPTVアーキテクチャーの概念図であるが,この図にある通り,「サービス制御機能」内の「IPTV制御」と「コアIMS」が実際のネットワーク上でも独立に機器配備されるケースを「非IMS型」,実装段階では機能融合した形の機器を配備するケースを「IMS適応型」と呼ぶ。

図2●NGNをベースにしたIPTVのシステム構成図
図2●NGNをベースにしたIPTVのシステム構成図
従来のNGNの検討範囲と比べて広範なシステムが議論されることになる。
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 非IMS型のIPTVシステム構築を支持するのは,NGNではない既存のネットワーク環境向けにIPTVのシステムを提供している勢力が中心である。非IMS型のアプローチは,既存資産であるIPTV制御機能を生かしながらネットワークをNGNへ移行する場合に有利になるとされている。

 一方で,NGNの導入がIPTVに先行,あるいは同時進行する場合は,帯域制御などNGNならではの機能を活用しながら「コアIMS」が「IPTV制御」機能を包含する形でサービス制御を行うシステムとなる。

 この場合,サービス制御系装置の共用化などでネットワーク構成が効率化できるというメリットがある。また,電話などほかのサービスと連携した高度なサービスも制御しやすくなるなど,放送・通信連携のアプリケーション構築が容易になると期待されている。

新庄 将之(しんしょう・まさゆき)
NECキャリアネットワーク企画本部 主任
1995年,NEC入社。局用交換機,IP電話用呼制御サーバーなどのソフトウェア開発に従事。2004年より事業戦略の立案・遂行にかかわる業務を担当。現在はIPTV関連の事業企画業務に従事。