筆者は最近,米国に対してある違和感を持っていた。それは「若者や若者文化の存在感が,日本に比べて大きい」ということだ。なぜトヨタ自動車は米国でだけ,若者向けの専用ブランドを展開しているのか。なぜ米国で高価な次世代ゲーム機がよく売れるのか--。その違和感を解消する言葉を最近知った。それが「新世紀世代」だ。

 「新世紀世代」とは,米国で1982年以降に生まれた世代を指す言葉だそうだ。新世紀世代の特徴は,人口が前の世代(X世代)よりも多いこと。なぜなら彼らは,人口の多いベビー・ブーマー(1946年~1964年生まれ)の子供に当たるからだ。

 筆者が「新世紀世代」という言葉を知ったのはつい最近のことだ。米Business Weekの記事を翻訳した日経ビジネスの記事「米国でMBA人気が急騰,団塊の“新世紀世代”がビジネススクールに殺到中」を読んだのがきっかけだった。同記事によれば,米国では人口の多い新世紀世代が大学院に通う年頃になったので,大学院の競争倍率が上がっているらしい。

 米国では,人口の多い新世紀世代が成人を迎えている--。そう聞いて,筆者は色々と腑に落ちることがあった。例えば,米Gartnerが「ITコンシューマライゼーション(消費者先導型IT)」という概念の中で提唱している,「企業は若者が受け入れている消費者向けのIT技術(インスタント・メッセンジャーや様々なWebアプリケーション)を,企業ITにも取り込んでいくべきだ」という主張。筆者は「若者に迎合せよ」という主張がどれぐらい受け入れられるか疑問に思っていたが,「人口の多い新世紀世代が,企業に入り始めている」という事実を前提にすると,説得力が違ってくるだろう。

 10代後半から20代がメイン・ターゲットであるゲーム産業にも,新世紀世代の影響が見て取れる。2000年代になって,日本でのゲーム産業の市場規模は縮小の一途だったが,米国では市場規模の着実な拡大が続いている。なぜ日米でこれほど差が出たのか筆者は不思議に感じていたが,「日本では若者の人口が減少する一方で,米国では若者の人口が急拡大していた」と考えれば,差が出て当たり前である。

 最近でも,9月24日に発売されたXbox 360向けの対戦型シューティング・ゲーム「Halo 3」が,わずか1日で1億7000万ドルも売り上げたという。米国では血沸き肉踊るアクション・ゲームが爆発的に売れる一方で,日本では脳を鍛えたり,顔の表情筋を鍛えるゲームが注目を集めていた--こう表現すれば,日米の違いを端的に認識できることだろう。

 思えば日本でも,人口の多い第二次ベビー・ブーマー(1970年~74年生まれ)が20代だった1990年代は,長い不況期でありながら,若者をターゲットにした産業には元気があった。音楽CDやゲーム・タイトルの「ミリオン・セラー」は続出していたし,大型のカラオケ店が日本各地に出現し,ハンバーガー店や居酒屋は順調に店舗を増やしていた。「食べ放題」を売りものにした店が増えたのも,1990年代らしい風景だったと思う。

 米国でも金融システム不安など,景気の先行きが不安視されているが,若者を相手にしたビジネスは,人口を考えれば少なくともあと数年は安泰だろう。日本に住むものとしてはアメリカをうらやましく感じる一方で,アメリカの動向を観察する記者としては,「米国で若者を中心に起きたブームが,そのまま日本に波及するとは限らない(日本にはブームの受け皿が無い)」という認識をより強くしなければならないと感じている。