製品やサービスを一生懸命に売ろうとするほど、顧客は一生懸命に断る方法を考える。営業が自分勝手な態度を示せば、顧客との距離は遠のくばかりだ。なぜ、その顧客に売りたいのか、自分と取引することで顧客にどんな価値を与えられるのかを伝えることが価値創造営業では重要だ。

 契約を取りたい、買ってもらいたいといった気持ちは誰もが持っています。しかし売れない営業は、この思いだけが先行し、「何とか売りたい」といった「モノ売り型の営業」になることが多いようです。本人は一生懸命ですから、自分勝手な営業とは感じていないでしょう。しかし顧客はどうでしょうか。単にモノを売りつけたいだけの自分勝手な営業と感じるかもしれません。そうなると、たとえ顧客のニーズがその製品やサービスに適していても、「売り込み攻撃」から解放されようと防衛本能が働き、営業からの情報を受け入れる思考になりません(図1)。

図1●自分勝手な営業では、顧客はついてこない
図1●自分勝手な営業では、顧客はついてこない

 以前、こんな経験がありました。新規の相手でしたが、私がいくらアプローチしても先方の社長は「もう別のところに決めているから」と貝のように閉じています。そこで私は、「もう売るのはやめます。私から買わなくて結構です。私は日本で一番システムを売っていますので、現在検討中のシステムが貴社のニーズを満たしているかの検証を、お手伝いすることができます」と切り出しました。そこで、いろいろな側面からアドバイスしたところ、最初は無視同然だった先方の社長が、「岩本さんだったら、この点はどうしますか」などと次第に意見を求めてくるようになりました。こうした結果、初回訪問で契約をいただけました。売り込むという意識がなくなったため、顧客も客観的に私の話を聞いてくれたのでしょう。

顧客を単なる数字を作る手段としていないか?

 売れない営業は、なぜ製品やサービスを売り込む意識が先行するのでしょうか。それは顧客の決定要因は製品やサービスの中身、そして価格だと思っているからです。つまり、製品やサービスが優れていれば売れる、価格さえ安ければ売れる、といった誤った思い込みがあるようです。

 しかも売れない営業は、気持ちに余裕がないのも特徴です。実績が出ない、だから「目先の数字」に気を取られてしまい顧客に振り回されるという活動に陥ってしまうのです。心の中に、「数字を作るためには」⇒「製品やサービスの良さを強調して」⇒「興味を持った顧客が買う」といった思考構造で凝り固まっているのではないでしょうか。ここで問題なのは、製品やサービス、そして顧客までも、自分の数字を作るための「単なる手段」として考えてしまっていることです。

 この無意識の意識が、「この営業は単に自分の数字を作るために来ている」と顧客に感じさせてしまうのです。「自分のために考えているのか」それとも「顧客のために考えているのか」によって、顧客は営業を評価します。まずは自分に問いかけてみましょう。「営業活動の目的は何か」と問いかけて、それが「自社の数値目標を達成すること」と頭に浮かんだら、あなたの行動は自分本位になっており、顧客に見限られてしまっている可能性があります。

 「今日決めてください」と言えない営業は、顧客の利点よりも自分の利点追求が先行し、どこか引け目を感じているため、はっきりと言えないのです。真剣に顧客のことを考えた提案であれば、もっと自信をもって言えるはずです。私も商談に臨む前に、「この顧客には売らなくていい」と何回も自分に言い聞かせてきました。自分に暗示をかけることで、あせる気持ちを切り替えようとしているのです。