ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター
タイトルの「いかに問題化するか?」という表現には、ちょっとした違和感を覚えられるかもしれません。ここでいう問題化とは個人の処罰を、社内の公的な機関の議題にどうやって上らせ、意思決定するかということを指しています。実は、この手の問題をコンプライアンス委員会や懲罰委員会などの機関にあげることはなかなか難しく、不正調査の一連のプロセスで最も頭の痛いところなのです。
なぜかといえば、トップを含め、誰も悪者になりたくないからです。現在の日本企業では、社員を処罰しようとすると「そこまでしなくても…」という声があがります。安易に特定の個人の問題か、風土の問題に帰着させ、結果としてうやむやにして済まそうとすることも少なくありません。そんな中でイエローカード(例:減給や出勤停止)やレッドカード(例:懲戒解雇)を出せば反発を買い、逆恨みされることもあるわけです。
しかし、周囲や当人への影響を考えて不正行為に見合ったカードを出さなければ、会社の価値観や統制はガタガタになってしまいます。会社の中で毅然とした態度を示すことができるのは、コンプライアンス担当の人だけです。この人たちが適切に判断しないと、誰も問題行為を指適する人はいなくなり、会社はおかしくなっていくでしょう。だから、コンプライアンス担当の方は、カードを出すことをためらってはいけないのです。
サッカーのドイツワールドカップで日本人として初めて3位決定戦の笛を吹き、高い評価を受けた審判の上川徹氏は、著書の中でこう述べています。
<退場や、ペナルティエリア内でのファウルによるPKといった厳しい判定を下す場面がある。そのとき、判定による試合への影響、判定への非難などを気にしてはいけない。選手の生活やその先のことなどを思い浮かべてはいけないのだ。起きたことに対して素直に吹けるようにしておかなくてはいけない。そこで必要なのは結果を恐れない強い心=勇気だ。弱さを見せ、たじろぎ、迷う姿を見せたら、選手はその審判を信頼しなくなる>(『平常心』上川徹 ランダムハウス講談社刊)
このように、会社でコンプライアンスの仕事に携わる人は、まず自分自身が起きたことに対して素直にカードを出す勇気を持つことが大事です。次に、実際にカードを出すために大切なことは、まずトップの支持をきちんと得ておくことです。
多くの会社でコンプライアンス委員会が設置されていますが、この機関はコンプライアンス担当者にとってまったく頼りになりません。コンプライアンス委員になっているのは、だいたい取締役や事業部長クラスですが、何らかの問題が発生して懲罰を行うことになったとき、委員の対応は2通りしかありません。一つは「私は関係ありません」という態度で、最初から最後まで石のように動かない人。もう一つは「そんなことをしたら社員がかわいそうだ」と反対し出す人です。
「過去にはこんなことやあんなこともあったのに、彼だけ処罰したら過去にさかのぼって全部処罰しなければいけなくなるではないか」「昔、同じことをやっている人がたくさんいたのに、彼だけ罰を受けるのは不公平だ」このような理由を述べて、反対してくるのです。しかし、こうした人たちに対しては臆せず、きちんと反論しなければいけません。
「今、会社法の改正やJ-SOXの対応で企業はコンプライアンスやリスク管理体制をきちんと構築することが義務になっています。そして、社員に『これからは何か問題が発生したらきちんと対応します』と一方では言いながら、問題があっても実際に処罰しなかったらどうなりますか? 誰も本気だとは思わなくなってしまうのですよ。」
とても悲しいことですが、カードを出す役割はコンプライアンス担当者が悪者になってやるしかありません。しかし、もしあなたの後にトップがいてあなたをサポートしてくれていれば、コンプライアンス委員会での反対も乗り切ることができるでしょう。
トップは、会社のすべての事象に対して責任を持つただ一人の人間であり、会社の価値基準を定める最後の拠り所なのです。このトップが毅然とした態度をとれない企業であれば転職を考えたほうがよいかもしれません。
注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。。
**お知らせ** このコラムの執筆者、秋山進氏が、2007年10月30日(火)に、東京・港区のトスラブ山王で『「企業理念と社会規範の統合」のためのコンプライアンスプログラム』について講演を行います。 ご興味のある方はぜひ聴講をご検討下さい。 詳細・お申し込みはこちらです。 |
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