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 グループウエアの使いこなしに問題意識を持っている企業の情報システム担当者が集まって勉強会を開き、情報共有の効果を高める方策を話し合った。その勉強会の内容を3回にわたって紹介する。第1回の会合では,「どのような情報を共有すればよいか」という基本について意見交換がなされた。(構成:玉置 亮太=日経コンピュータ、写真:山西 英二)

写真1●畑 久仁昭 東亜建設工業 管理本部副本部長BCPプロジェクト室長
写真1●畑 久仁昭 東亜建設工業 管理本部副本部長BCPプロジェクト室長
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 「グループウエアを活用して情報を効果的に共有する。そして企業の経営に役立てる。言うのは簡単だが、実践はなかなか難しい。まずは,情報共有に関する問題意識をお互いに披露するところから始めたい」。

 グループウエア・ユーザーによる勉強会の座長を務めた東亜建設工業の畑久仁昭管理本部副本部長は第1回目の勉強会でこう切り出した。畑氏は同社で今年3月まで情報システム部長を勤めていた。同社はマイクロソフトの「Exchange Server」を使っている。

 参加者が話し合った結果,まず「そもそもどんな情報を共有しているのか」という基本から入ることになった。

情報共有はスピード第一

 洋菓子メーカーのモンテールは,サイボウズの「Office」を使って、受発注や生産指示,発送指示といった業務の連絡を行うとともに,営業担当者の行動予定、新商品、品質や衛生の法律関連といった情報の共有を図っている。

写真2●鈴木 智也 モンテール 取締役管理本部長
写真2●鈴木 智也 モンテール 取締役管理本部長
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 同社で情報システム部長を務める鈴木智也取締役管理本部長は、「当社の業務を回していく上で、スピーディな情報共有は欠かせない」と話す。「当社の商品は要冷蔵の生もの。消費期限は3日くらいで、当日受注、当日生産、当日出荷が基本」。

 ファクシミリや電話で生産や出荷指示をしていたころには、受注や発送指示が社内を飛び交い、情報が「爆発」していた。「ファックスを送った、送ってないとか、電話で言った、言わないといった事態が頻繁に起きていた。学生ではないのだから、見てない、聞いてないでは済まされない」(鈴木取締役)。

 行動予定や新商品、法律関連情報については,「なるべく詳細に入力させて共有できるようにしている」(鈴木取締役)。例えば,商品に関する情報については、「新商品情報は当然として、品質や衛生に関する情報を特に重視している。食品衛生法の改正があったり、最近は鳥インフルエンザやBSEに関する情報が重要。営業部門、管理部門、そして製造部門も含めてすべての部署に流す」(同)。

顧客情報を素早く共有

写真3●坂井 忠史 オリエンタルホテル東京ベイ 経営企画部経営企画課経営企画担当
写真3●坂井 忠史 オリエンタルホテル東京ベイ 経営企画部経営企画課経営企画担当
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 オリエンタルホテル東京ベイでグループウエアの活用を手掛ける坂井忠史氏は「サービス業の情報共有はスピードが第一」として、やはり情報共有の速さの重要性を強調する。同社が利用するのは、サイボウズの「ガルーン」である。「今やホテル予約の8割がインターネット経由。電話より頻繁に予約が入ってくる。一組のお客様に対して、複数のスタッフが応対することになるため、次々に入ってくる予約情報をいかにスタッフ全員へ素早く行き渡らせるかが、お客様へのサービスの要になる」。

 サービス業として共有すべき情報には、どんなものがあるのか。坂井氏によれば、食事の配慮や部屋の希望などが代表例。「そばアレルギーのお客様に対応したり、赤ちゃん向けの特別な部屋への希望に応えたり、といったケースがある」(坂井氏)。

 こうした情報を予約係がグループウエアに入力して各部署の担当者が参照するようにしておけば、細かい注意事項がすぐに伝達できる。「情報共有のスピードが上がることによって、一人ひとりのお客様の趣味・嗜好に素早く応対できるようになる」(坂井氏)。同社はさらなるスピードアップを目指し、グループウエアによるペーパーレス化を進めている最中だ。

失敗事例を強制的に蓄積

 続いて議題に上がったのは、グループウエアの活用度をいかに高めるか、である。そのためには魅力的な情報を集めないといけない。東亜建設工業が採っている策は、施工に関する失敗事例の蓄積である。「自然が相手の仕事だから、どうしても失敗することはある。失敗体験自体がノウハウの一種となる」(畑氏)。ノウハウがグループウエア上にあるなら、仕事の前に類似案件を検索して読んでおこうという気になる。ただし、当然ながら失敗事例を積極的に公開することに抵抗を感じる社員は少なくない。「みんな自分から言いたくないのは当然だが、強制的に出させるようにしている」(畑氏)。

写真4●松田 美孝 竹中土木 管理本部情報システム部課長
写真4●松田 美孝 竹中土木 管理本部情報システム部課長
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 そもそも「必要な情報を判断できず、内容をどこまで充実させるべきか、誰がどうやって内容を整理するか、今ひとつ分からない」。竹中土木の松田美孝 管理本部情報システム部課長(写真4)は、率直な疑問を述べた。「必要な情報を自分で判断できる人間じゃないと、現状のグループウエアはうまく使いこなせないのではないか」。松田課長は、こう続けた。同社はNECの「StarOffice」を使用している。

 情報をため込んだものの、それをどうすれば効果的に利用者に見せられるか。同社は試行錯誤を続けているという。「そもそもグループウエアを使うべきなのか、ファイル・サーバーで足りるのか。私も、エンドユーザーも悩んでいる。ため込む情報の鮮度も重要だから、常にメンテナンスしなければならない。内容をどこまで充実させるべきか、誰がどうやって内容を整理するべきか」。松田課長はこれという解決手段がない中で,「とにかく情報はためておいて、使う側が判断するようにしている」と語った。

 これに対して参加者から、それぞれの工夫が披露された。モンテールの鈴木取締役は、積極的に活用できるようになった現在に至るまでの工夫を話した。「とにかく手軽な情報を入力することから始めて、徐々に内容を充実させていくようにした」。

 「省力化が目的のシステムと違って、グループウエアを使った情報系システムは明確な効果を測りにくい。むしろムリに効果を測ろうとせず、情報を入力するエンドユーザーにも管理するシステム部門にも、負担にならない程度の情報を蓄積するようにする。そうして、管理のための管理に陥ってしまわないよう、心掛けてきた」(鈴木取締役)。

 オリエンタルホテル東京ベイは月に1回、情報共有化ミーティングを開催し,グループウエアを使いこなすため、どんな情報を登録・公開すればよいか議論を重ねている。とはいえ、「現場はトライ・アンド・エラーの繰り返し。やっては失敗して失敗を直してという取り組みを、常に続けている」(坂井氏)。

情報の背景を理解してもらう

 情報に必ず「人」を付けることを心掛けるという意見もあった。新商品や営業施策などの情報を掲示板に投稿する際に、投稿した人の考え、背景にある事情、狙っている顧客層や効果などを、簡単でもいいから書き添える。

 「情報を受け取った側が、対応する人を意識できれば、情報は無味乾燥なものにならず、生きた知識として受け止めることができる」とする意見も出た。自分はこう思うんだという文章を付けてもらうことは意義深い。「例えば製造現場での工夫を伝えることで、実はこの商品にはこんな思いが込められているのだな、と分かる。業務効率が上がるわけではないが、お互いに思いを共有することで、その情報に接した人のモチベーションを上げることができる。経験的にそう感じる」。

 この考えを支持する意見がオリエンタルホテル東京ベイの坂井氏からも出た。同社は,宿泊客が記入したアンケート情報の共有を検討している。坂井氏は、「何年も働いているベテランのスタッフはともかく、アルバイトの人はお客様に対して的確な受け答えができるとは限らない」と話す。そこで「お客様のアンケート情報をうまくデータベース上に整理し,とにかくこのデータベースを見れば済むようにする。そうやって喜ばれた応対の仕方を全員で共有できれば、スタッフのモチベーション向上に効果があるのではないか」。

 「情報に接した人の仕事に対するモチベーションを高める。それによってさらに情報の蓄積を促し、好循環を生み出す」。畑氏がグループウエア利用の勘所をこうまとめると、参加者全員が深くうなずいた。