提案書で重要なポイントの1つが、内容を記述する際の「言葉」に注意することだ。決してITの専門用語やソリューションプロバイダが考えた言葉を押し付けず、常に顧客と同じ目線になるように配慮することで、互いの「理解」「期待」「合意」につなげる。

 提案書は、ソリューションを売り込むための道具ではありません。提案はあくまでお客様のために行うものであって、お客様の共感を得られなければ成功しないでしょう。しかし、こうした考えを持つ営業部員はまだ少ないようです。確かに営業部員であれば、何とか受注に結び付けたいと考えるのは当たり前ですが、自分の利益だけを重視し、お客様にモノを買わせようという意識が強い姿勢では、なかなか受注を得られないでしょう。営業手法のノウハウの中には、お客様の心理を操るようなケースもあるかもしれませんが、私はあまりお勧めしません。

 成果が上がらないと嘆く方は、自分が本当にお客様の利益を考えて提案してきたかどうか、もう一度、お客様の立場に立って考えてみてください。自分の都合だけでお客様に提案してきたことが、これまでなかなか受注に結び付かない原因の1つだったのではないでしょうか。

 私は常日頃、提案営業する際の心構えの1つとして「提案活動はお客様のために実行するもので、受注するための手段ではない」と思っています。お客様と一緒に課題や問題を抽出し、有効な解決策を考えていく「共創活動」に結び付けることが、提案営業の最も重要な点だと考えています。提案内容がお客様に高く評価されれば、自社にとっても大きな財産になるでしょう。もちろん、ここまで実行できるようになるには、営業部員は本物のソリューションスキルを身に付ける必要があり、日々学ぶ姿勢を忘れてはいけません。提案活動とは、背筋を伸ばし、しかし決して背伸びをせずに「熱き思い」を伝える活動なのです。

提案書はコミュニケーションツール

 こうした点を考慮すると、提案書はむしろお客様とのコミュニケーションを育てるための重要なツールと考えるべきです。ヒアリングやプレゼンテーションの現場で、お客様と顔を合わせながらコミュニケーションを取ることはもちろんですが、それだけではお客様に「熱き思い」はうまく伝わりにくいでしょう。実は提案書こそが、最も基本となるコミュニケーションツールになるのです。

 そうなると、今までの提案書の書き方も大きく変える必要があるでしょう。重要な点は「常に相手と同じ目線になるように配慮する」ということです。私は特に「言葉」に注意すべきだと考えています()。提案書はコミュニケーションのツールですから、同じ言葉を使うことで、互いに理解しやすい環境を作ることが求められるからです。できるだけ互いの共通語、具体的にはお客様の言葉を使って提案書の内容を書き換えるほか、何らかの意見を言う場合もお客様の言葉を使って意見すべきでしょう。同じ言葉を使うことで理解が生まれれば、その後は信頼感や期待感が出てきますし、互いの合意に結び付きやすいはずです。

図●提案書の中に盛り込む言葉は常に相手と同じ目線になるよう配慮し、「理解」「期待」「合意」につなげる
図●提案書の中に盛り込む言葉は常に相手と同じ目線になるよう配慮し、「理解」「期待」「合意」につなげる [画像のクリックで拡大表示]

理解を得るには“共通語”を使う

 例えば、今までの提案書で使われている言葉をもう一度、振り返ってみてください。CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)やSFA(セールス・フォース・オートメーション)などIT関連の専門用語が頻繁に登場していたのではないでしょうか。たとえ、IT関連の専門用語でなくても、ソリューションプロバイダが自社で考えた英語のキャッチフレーズを入れている場合もあるでしょう。

 確かに横文字の言葉を入れると先進的なイメージがあるかもしれませんが、それはソリューションプロバイダの都合です。お客様はむしろ、聞き慣れない言葉を入れることで、自社の考え方と一致しているかどうか不安になる場合も少なくありません。

 このためには、CRMではなく「顧客管理」、SFAでなく「営業支援」など相手が理解できる言葉を書くことはもちろん、お客様の要望に対して何らかの反対意見を出す場合も、ソリューションプロバイダが考えた言葉を使わず、常にお客様の言葉を使って対応することが求められます。

 例えば、お客様が次期営業支援システムの目標として、「社員1人ひとりの創造性の発揮」などのキーワードを挙げていた場合、お客様が考えたキーワードや望んで使うキーワードこそ今回のソリューション提案の重要なポイントですから、これを提案書の中に繰り返し、盛り込むことが必要です。お客様の求めるキーワードを何度も登場させることで、互いの方向性が一致していることが分かれば、お客様の信頼感を得ることができるでしょう。

串戸 一浩 アイル ソリューション本部長
専門商社で海外向けマーケティング業務を担当。97年4月に中堅ソフト会社に転職し、大手鉄道会社や流通会社などにソリューションを提案、そのうち9割近くを受注。現在、アイルで人材開発ソリューションに注力