ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター
企業における不正調査はとても難しいものです。ほとんどの社員は何も悪いことをせず一生懸命仕事をしているのに、下手に監査や法務担当者が動くと、会社という小さな社会の中ではあっという間に変なうわさが広がってしまいます。
「あの人、何か悪いことをしたらしい…」
こんなうわさが変な形で広がると、その人に何の過失もないのに周囲から孤立して窮地に追い込まれることになりかねません。社内調査の遂行には細心の注意が求められます。
また、監査や法務の人間は警察官ではないので、強制的な捜査はできません。捜査権があって、銀行口座のお金の出入りをチェックできたらどれだけ早く不正を発見できるだろうとため息をつくことは何度もありましたが、そういうことはできないのです。また、問題自体がかなり大きくなり「これは大変だ!」と思って警察に相談しても、かれらは私たちが期待するようには動いてくれません。警察は民事不介入が原則なので、相当に確かな証拠がないと動かないのです。
こういう前提の中でコンプライアンスに関わる人間は調査を行わなければなりません。しかも、安易に調査を始めると、最初から不正の首謀者に話を聞きに行ったりしてしまい、見事なまでに証拠を消されてしまう事態を招いてしまったりします。では、企業の担当者は、どのように調査を進めればよいのでしょうか。
これから2回にわたってはそのプロセスを解説していきます。
(1)人を見る
調査において最初にすることは、(古典的な話で大変恐縮ですが)、まず「人を見る」ことです。かつて東京地検特捜部で辣腕を振るい、その後、逆に詐欺容疑で東京地検に起訴された田中森一氏の『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』(幻冬舎)という本に興味深い一節があったのでご紹介します。
<待ち合わせ場所の近くの物陰に隠れて待っていた。すると、経理部長がやってきた。(中略)背広も靴も、その地位に相応のもので、取り立てて豪奢なものではない。だが、よく見ると、ワイシャツの下に下着をつけていない。素肌の上に直接ワイシャツを着ている。
「なるほどこいつは遊び人やな、間違いなくやっとる」>
ワイシャツの着こなし方は世代によって異なる面もありますが、私が見てきた経験でいっても、やはり問題を起こしている人はなんとなく艶っぽくなる傾向があります。突然、身につけているものが華美になったり、今までにはなかった雰囲気が出たりするのです。わかりやすい例を出すと、「なんであなたが急にフランク・ミュラーの時計をつけるようになったの?」というようなことです。
中にはそうならないタイプの人もいます。本連載で以前取り上げた、ダミー会社をつくって会社のお金を抜き取っていた社長は、虫も殺さぬような本当にいい人でした。しかし、彼には危ない橋を渡るインセンティブがありました。それはギャンブルです。競馬、競輪、競艇を全部やっているほどのギャンブル好きで、その結果、多額の借金を抱え会社のお金に手を出さないとやっていけなくなったのです。
また、会社にはなぜか「別格の人」がいることがあります。他の人がやったら間違いなく怒られるようなことでも、その人だけは何をやってもOKで、「もしかしたらトップの隠し子かも?」とか「何かトップの弱みを握っているのではないか?」と疑いをもたれているような人。こういう人の周りではたいてい何らかの問題が発生しています。
また、社内調査をやっていると、「あの人は何十年もこの会社にいて、今まで何も問題を起こしていないから大丈夫」と言われることがあります。では、本当にそうかといえば、残念ながらそんなことはありません。というのは、何らかの形でその人にお金が必用な状況が生まれると、人は変わってしまうことがあるからなのです。その意味で、その人の過去だけをみて信用できるか否かを判断することはできません。
以上に挙げた「人を見るポイント」は、次のようにまとめられます。
・突然華美になる人、なった人。艶っぽくなった人。
・危ない橋を渡るインセンティブのある人。
・別格の人。トップのお気に入りの人。
調査を担当する方は、こうしたポイントに焦点を当てて人を見ていかなければなりません。
注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。。
**お知らせ** このコラムの執筆者、秋山進氏が、2007年10月30日(火)に、東京・港区のトスラブ山王で『「企業理念と社会規範の統合」のためのコンプライアンスプログラム』について講演を行います。 ご興味のある方はぜひ聴講をご検討下さい。 詳細・お申し込みはこちらです。 |
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