「顧客満足度の結果に利益が付いてくる。まず顧客の満足度を上げろと現場に指示した」。こう話すのは営業利益率10%を目標に掲げたNTTデータの山下徹新社長である。現場のパワーを全開にし、満足という名の顧客価値を上げてこそ利益がもたらされるという考えだ。ところが、この定理の証明は日本ユニシスを見ている限り、容易ではなさそうだ。なぜなら顧客満足度にかけては、過去からずっと高いレベルを維持しているにもかかわらず、同社の業績に反映されていないからである。多くのITサービス企業の経営者は「日本IT業界の七不思議」の一つに数えている。

 山下社長が指摘するように、顧客満足度を高めるのは「現場力」である。となれば業績向上の仕組み作りは「経営力」の問題にすり替わる。つまり七不思議の日本ユニシスは、経営に課題があると見られているわけだ。そして、またまたその持病を悪化させるような事件が同社を悩ませている。

 それはTOB(株式公開買い付け)による買収成立の瞬間に、「待ってました」とばかりに買われた側のネットマークスによる不正取引存在の発表だ。それを引き金にネットマークスは債務超過、株式の監理ポスト入り、過年度と2006年度の業績修正など矢継ぎ早に事が運び、株価が暴落。何ともみっともないM&A(企業の合併・買収)になってしまったのだ。

 結局、日本ユニシスは1カ月で60億円強も投資価値を目減りさせた。また、同社がネットマークスと提携協議を開始した06年夏の時点にさかのぼって、架空の計算ながら両社の06年度見込みを合算すると、売り上げは3960億円で純利益は34億円だが、ネットマークスの業績修正で3580億円、利益は5億円の赤字に陥る。ある証券アナリストは、「ネットマークスはニイウス同様、財務諸表の数字の動きが怪しく、商流が臭い会社としてマークされていた。それを知らなかったでは済まされず、明らかに60億円はどぶに捨てたようなもの。トップがM&Aを陣頭指揮した結果なのだから、この大失敗に対して経営責任を免れない」と手厳しい。

 TOBにケチが付き、株価が3分の1に下落したため、おそらく93億円というのれん代の計上は認められず再評価(減損処理)が予想される。この結果、 08年3月期に見込んだ連結純利益100億円は半分程度に落ち込む可能性が高い。前社長の置きみやげである売り上げの4%(120億円前後)というロイヤルティの重荷が07年度からなくなり、ようやく利益体質に生まれ変わる矢先の“本領発揮”に、「現場の疲労は増すばかり」(日本ユニシス幹部)である。

 同社の経営の問題は、4年ごとにIT業界の経験に乏しい社長が親会社の三井物産から送り込まれることであろう。しかも新社長の強い個性を反映して、経営方針が再構築される傾向が強い。長期的で一貫した戦略の展開が難しい体質を持つ。特に島田精一前社長(住宅金融支援機構理事長)と、その後任の籾井勝人現社長の経営路線の振れは大きい。島田氏がスリム化、機能別分社、人事制度の変更、若手登用など経営改革を続けたのに対し、籾井社長は成長路線への転換を宣言、売り上げ5000億円を目指すとした。守りから攻めの柱がM&Aで、ロイヤルティ不要による資金の裏付けがある。また前社長は役員報酬をはじめ倹約に励んだが、「後任社長は報酬を引き上げ、古参に手厚いとされている。我々古株は居心地いいが、若い人にはきつい」と、将来を心配する古参幹部もいる。

 鮮明な違いは、ネット機器販売への対処だ。サービス&コンサルの野村総合研究所をモデルとしていた島田氏は、子会社ユニアデックスとネクストコムの合併を三井物産から迫られたが断った。ハード売り上げ8割で価格競争の渦中にあるネクストコムとのシナジーが期待できないからだ。一方、籾井社長は同様業態のネットマークスの買収に踏み込み、シナジーを期待する。このビジネス観の相違がどう今後の業績に現れるか。業界筋はネットマークスの最大顧客が日本IBM である点に注目している。