Steve Ballmer氏はこのところ,同じ発言を繰り返している。「Microsoftは,人々が好んで言うところの『デスクトップ企業』として成長した。私は今日でも,デスクトップ企業とは何なのかをはっきり理解していないが,私たちがデスクトップ企業だったということはわかっている」と彼は言い続けているのだ。

 Microsoftの社是が「すべての家庭のすべてのデスクトップ(机の上)にPCを」だったことを考えると,デスクトップ企業の意味がよくわからないというBallmer氏の主張は,誠実さを欠いている。しかし,彼の主張を聞いた人は,Microsoftには多様化によってデスクトップ企業がエンタープライズ分野を支配できることを証明してきた歴史がある,という考えに同意したい気持ちになるだろう。Microsoftはビジネス・モデルを再び変化させて,GoogleやSalesforce.comといった「Web 2.0」のライバルたちを追い越す準備ができている,ということを人々が受け入れられるように,Ballmer氏は巧みに状況を整えているのだ。

 Ballmer氏は,この新しい競争モデルを「ソフトウエア+サービス」と呼んでいる。しかし,Ballmer氏の「ソフトウエア+サービス」という言葉は,Software as a Service (SaaS)を提供するライバルたちを指すだけでなく,Microsoftが競争で直面している本当の困難を直接言い表しているのだ。つまり,Webベースのサービスをお金に変える方法を模索しつつ,Microsoftの巨大なソフトウエア収入を維持し,増やしていくにはどのようにすればいいか,という問題だ。

自分自身との戦い


 SaaSへの取り組みを進める中で,Microsoftはどのようにすれば,自分自身と争うことを避けられるのだろうか? SaaSのおかげで,Microsoftの様々な製品を壮大なスケールで統合させる戦略が生まれ,同社が活性化されたことは明白である。同社は,自らの全ソフトウエアに対応するサービス,例えば,ソフトウエア側のExchange ServerとOutlook Client,サーバー側のOutlook Web Access (OWA),デバイスのフォーム・ファクタとしてのOutlook Mobile,そして統合コミュニケーション(UC)側のOutlook Voice Accessを提供することのみを目指しているわけではない。それをするのは,当たり前のことだ。

 Windows Live Experience Program Management部門のバイス・プレジデントであるChris Jones氏は,次のように話した。「今から5年後,すべてのソフトウエアにはサービスが付属するようになり,顧客はそれを当たり前に思うようになる,と私たちは信じている」。Microsoftは単に,Windows LiveやMicrosoft Dynamicsといったサブスクリプション・サービスを対象とするビジネス・モデルを新たに作り出しているだけではないし,広告収入や,Exchangeのような企業にとって非常に重要な技術のホスティングについて真剣に考え始めただけでもない,と筆者は思う。

 Microsoftの「壮大なる統合」の本質は,Ballmer氏が以下のような発言でしきりに強調している「ソフトウエア+サービス」戦略の4本の柱によって示されている,と筆者は考えている。

 私たちの現在の体制を本当の意味で置き換えることのできるモデルは,一つしかない。それは,四つの非常に異なる現象の最もよいところを統合できるモデルだ。すなわち,デスクトップPCの世界,機能豊富なユーザー・インタフェース,オフラインとオンラインのアクセス,そして「パーソナライズされた統合」と呼ぶものの四つだ。「パーソナライズされた統合」とは,このサーバーとサービスではこういうことをしてもいいという誰かが決めたルールに縛られることなく,ユーザー独自の自由な方法で,何かを集めて,それらを統合,保管,管理,リンクする機能のことだ。