顧客が持つ価値感や判断指標はそれぞれ異なり、課題やニーズも様々である。多様化する顧客に対し、価値感を変える提言、信頼性を与える論証の組み立て、数字が持つ力の使い方で顧客の期待感を確信へと変えていくのである。
顧客の価値感や判断指標は様々です。そうした顧客に対し、自社のサービスや商品について一生懸命、伝えても顧客の心には響きません。もちろん、「営業は根性がすべてだ」などと言って顧客に尽くす営業もいますが、逆に顧客に主導権を握られてしまうケースは少なくありません。「顧客のために何でもします」といった姿勢は、良い感じを与える半面で弱気な発言とも思われてしまいますし、赤字プロジェクトを発生させるリスクにもなりかねません。
顧客はソリューションプロバイダを選定判断する立場、営業は選定される立場といった関係構造では、受注できるかどうかは顧客の判断次第となります。「勝つべくして勝つ!」と私は日ごろから社員によく言っていますが、勝つべくして勝つとは、商談のイニシアチブを営業が握っていくことです。
イニシアチブを握るというのは難しいことに思えるかもしれません。顧客が持つ価値感や判断指標はそれぞれ異なり、課題やニーズも様々ですから、商談はどうしても顧客主導になりがちですし、それが「ソリューション営業」と思っている方も多いでしょう。
ただし、これでは商談の期間が長引くだけですし、顧客に振り回されてしまいます。それを価値感を変える提言、さらに信頼性を与える論証の組み立てなどで顧客からも一目置かれる存在になれば、ソリューションプロバイダがイニシアチブを握ることができます。
ソリューションプロバイダが商談を論理的に展開できれば、顧客も迷う心配がなくなり、商談で余計な袋小路に入り込むことがなくなるでしょう。結果的に商談の短期化を促すことになり、ソリューションプロバイダも余計な労力を使わずに済みます。いったん「勝ちパターン」を作ることができれば、さらなる商談を獲得できるなど好循環になるでしょう。
では、商談のイニシアチブを握るには、どうすればよいのでしょうか。それは商談のプロセスや中身を極めて論理的に展開し、顧客の思考を導いてあげることといえます。営業部員の中には、なんとなく商談を進めている方も少なくないでしょうが、問題意識もなくソリューションを提案しているようでは、顧客に対して何も価値を与えることはできません。結局は、価格しか差異化につながらないのです。
“真実の瞬間”が最大の山場に
図1を参照してください。このフローは営業活動と顧客心理の導線を示した図で、商談のイニシアチブを握るためのプロセスと考えてください。
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図1●アプローチからクローズまでの営業プロセスの基本的な流れ 顧客に気付きを与え、顧客が「この営業はノウハウを持っている」と感じる真実の瞬間作りが、価値創造型営業の勝ちパターンとなる。それには顧客を上回る知識や課題発見力をつけていくことが重要になる [画像のクリックで拡大表示] |
まずは顧客が関心、興味を持つ情報を収集し、的確にアプローチするための計画を立案できるようにします。「何、それ?」と顧客を引きつけるのです。
2番目の「気付きを与える」が実は最大のポイントで、ここで顧客の悩みや課題に対して核心を突く質問や意見を言うことで、相手が今まで気付かなかった点や驚きを与えるのです。これを私は“真実の瞬間”と呼んでいます。顧客に「この営業はノウハウを持っている」とその存在価値を感じさせた瞬間だからです。重要な点は、顧客に気付きや驚きを与える提言の場面を意図的に作り、顧客の判断や価値感を変えるよう仕掛けることです。ショックを与える場面を設けて顧客の思い込みや価値感の変化を狙うのです。
もちろん、そのためには相手の業務知識やニーズ、自社の商品やサービスの知識、そして質問スキルが求められます。営業の姿勢も大切で、システムのプロとして指導する立場の意識を持って、毅然とした姿勢で対応しましょう。低姿勢の態度や発言では、顧客にとってメリットとなる価値ある情報であっても、顧客が持つ既成概念で跳ね飛ばされて終わるかもしれません。
価値を「定量化」できるようにする
3番目が顧客に理解しやすいよいうに「ストーリーを語る」ことです。あいまいにならず、と言って長く説明するものでもありません。できるだけ完結に、鮮明かつ分かりやすくすることが大事です。顧客が「話を聞きたい」という姿勢になれば、イニシアチブを握ったと考えて間違いありません。
そのために私は、顧客から見た価値をうまく「定量化」することが必要ではと思っています。例えば、何らかのキーワードを考えることで、顧客との思いが1つになるようにしていくのです。
ソリューションの事例ではありませんが、こうした場面で私がいつも感心するケースが、ソニーが以前に開発した小型ビデオカメラ、いわゆる「パスポートサイズ」と呼んだ商品です。このキーワードだけで、誰もが具体的に頭の中でビジュアルとしてイメージできると思います。価値をうまく定量化して表現できれば、顧客に自社の製品やサービスを選んでもらうための強力なメッセージとなります。それと同時に顧客の行動を誘発する強力な武器ともなるでしょう。