ようこそ,開米のドキュメント図解術駆け込み寺へ。私が代表の開米瑞浩です。4年前からこの領域で仕事をしており,「図解」がらみで著書もいくつかありますので,どうぞお見知りおきください。

 さて,インターネットに溢れる膨大な情報をかき分けて,わざわざこの駆け込み寺へたどりつかれたということは,この記事の読者はきっと,

  ドキュメント作りに困っていて
  図解すれば何とかなるのではないか・・・と期待をかけ,
  手っ取り早く使える図解の技術を覚えてみようとやってきた

 きっとそんな方なのではないでしょうか?でも,ごめんなさい,残念ながら・・・実はその期待には半分ぐらいしかお答えすることができません。

■図解の技術なんて存在しないのです

 「図解をすることでドキュメントがわかりやすくなることがある」のはそのとおりです。よくできたチャート(以下,「図解」と「チャート」は同じ意味で使用します)は複雑怪奇な情報をスッキリ一目瞭然に表現できてしまうことがあり,その効果は絶大です。

 しかしながら,「これさえ覚えて使えば何とかなる」というような図解の技術は存在しません。IT業界では「○○問題を解決する切り札はこれ!」というキャッチフレーズの「ナントカ手法」が手を変え品を変えて,年中流行しているようなところがありますが,「図解の技術」はそういうものではないのです。

 もっとも,実は私自身も過去には「図解の技術」が存在すると思っていたことがありました。

 IT分野には設計用の表記法としての,フローチャートやHIPO(Hierarchy plus Input Process Output)やERD(Entity-Relationship Diagram)やOMT(Object Modeling Technique)あるいはUML(Unified Modeling Language)のような手法があります。

 それらの手法は「こういう場合はこう書く」という表記ルールの集大成であり,ルールを細部まで統一・標準化することで,同じチャートを誰が読んでも同じ解釈ができるようにする,という狙いがありました。そしてその狙いは基本的に成功してきたのです。

 ただし,それらは主に実装技術に近い「設計」の場で使われるものであって,それ以外の例えば企画立案や提案の場面では,「表記ルールを詳細に統一」してもあまり役に立ちません。

 これは私もかつては誤解していた部分でした。企画段階ではマインドマップのようにルールのあまりない自由連想式の手法が便利ですし,提案となると,単なる個条書きでいかにシンプルなメッセージを作れるかが鍵だったりします。「図解の技術」で,どうにかなるものではないのです。

■図解に必要なのは実は「言葉」の力

 といっても,だからといって図解が必要ないということではありません。

  図解の技術は存在しませんが,図解することは重要です

 実は,役に立つ「図解」をするために必要なスキルは「読解力+構成力」であって,図解そのものの技術というのはありません(図1)。

図1●図解に必要なスキルは読解力と構成力
図1●図解に必要なスキルは読解力と構成力
文章で書かれた情報を「図解」するためには,まずは文章そのものを解読し,次に図解として構成しなければならない。図解そのものに技術はない。

 読解力は,文章という言葉(コトバ)の意味を「正しく」読み解く力,構成力はその読み解いた意味を単語に分解して,足りない言葉(コトバ)を補い,2次元の平面上に適切に配置していく力です。

 と,こう書くと「構成力がつまり図解の技術なんじゃないの?」と思われるかもしれませんが,そうではありません。構成力というのは実際には「ストーリーを組み立てる言葉(コトバ)の力」なので,読解力の親戚のようなものです。「図形の組み合わせを駆使する技術」ではないのです。

 そんな事情を踏まえると,実際のところ8:2ぐらいの比率で読解力のほうが重要です。事実上「読解力がすべて」と言ってもいいぐらいです。

 そんなわけで,よくできた「図解」はきっちりとした「読解+構成」のプロセスを経ていますから,元の文章の意味が非常に分かりやすくなっているものです。ということは

  図解をすると元の文章の矛盾,欠陥も明らかになる

 ものです。図解をすると情報の過不足やあいまいさ,誤解を発見しやすくなるため,図解をする作業を通じて,元ネタである「文章で書かれた情報」自体の品質向上を図ることができます。これこそが「図解が重要である」という理由です。