米グーグルは今、6億~7億ドルもの巨費をかけてオレゴン州やノースカロライナ州などに巨大データセンターを新設しているといわれている。検索サービスで競合する米マイクロソフト、米ヤフーも相当な規模のデータセンターを新設中だ。

 検索サービスを手掛ける企業だけではない。米シスコは全世界数十拠点を現行の4カ所に集約した上で、最終的にテキサス州に新データセンターを設立する。米ヒューレット・パッカード(HP)も、全世界のデータセンターを2008年までに米国内の3カ所(詳細は非公開)に集約する「NGDC(次世代データセンター)」構想を実現に移している。米ジュニパーネットワークスのボビー・グハサカ製品マーケティング担当シニア・マネージャは「エクソン、メリルリンチ、トヨタ自動車、政府機関など、米国では多くの組織にデータセンター集約化の動きがある」と言う。

 「建築面積が100万平方フィートを超えることからメガセンターと呼ばれる」(米フォレスター・リサーチのジェームス・ステイトン上級アナリスト)、米国の巨大なデータセンターは、いずれも多数のデータセンターを集約したものだ。再編の動きが急なのには理由がある。

 まず、「回線費用と管理費用のバランスが変わったから」(シスコのダグラス・ゴーレイ データセンター・マーケティング シニア・ディレクタ)。通信回線の費用が大幅に下がったのに対し、情報システムは複雑になり、データ量は爆発的に増えている。その管理に要する費用が急増し、データセンターを集約して人件費を抑えたほうが、総費用が安く済むというわけだ(図1)。日本でも同様の動きがあるが、国土が広い米国では、より大きな流れとなっている。

図1●米国ではデータセンターの建設ラッシュが技術革新を後押しし始めた
図1●米国ではデータセンターの建設ラッシュが技術革新を後押しし始めた

 ジュニパーのグハサカ シニア・マネージャは、「SOX法などの内部統制や、BCP(事業継続計画)に対する要求の高まりも、データセンターの集約を促している」と指摘する。電力供給に不安があり地震が多いカリフォルニアなどを避け、水源があって電力供給に不安がないオレゴン州、地震の恐れがないアリゾナ州などに移すといった動きがあるというのだ。「米国では、発電手段や州によって電力料金が大きく異なることも、こうした動きを後押しする」(フォレスターのステイトン上級アナリスト)。

 データセンターの老朽化が進んでいるという事情もある。「米国のデータセンターの54%は、インターネットが普及し始めた1991年よりも前に建てられたもの」(リサーチ会社の米ネメルテス・リサーチのジョアンナ・ティル・ジョンソン会長)だからだ。

熱対策と管理に投資が集中

 こうした大型データセンターの建設ラッシュは、規模の違いこそあれ何らかのデータセンターを持つ一般企業にも恩恵をもたらしそうだ。それは、発熱と管理の複雑さを軽減する技術の進歩によるものである。

 巨大化したデータセンターは、「発生する熱および冷却に関するものと、管理の2つの課題を抱えている」(米EMCのロナルド・ロイド製品マーケティング・マネージャー)。多数のサーバーやストレージ、ネットワーク装置といったIT機器が集まる最新のデータセンターでは、もはやIT機器が消費する電力よりも、冷却装置が消費する電力のほうが大きい(図2(a))。コストも、米IDCの調査によればサーバーの導入コストに比べて圧倒的に管理コストが高くなっている(図2(b))。

図2●消費電力、コストともに主従が逆転●
図2●消費電力、コストともに主従が逆転  [画像のクリックで拡大表示]

 政府機関もIT機器の電力消費の増大を問題視し、米国連邦エネルギー省(DoE)を通じて調査・研究に乗り出した。DoEが投資する研究機関ローレンス・バークレイ国立研究所 環境エネルギー技術部門のウイリアム・チューディ プログラム・マネージャは「2005年にはサーバーだけで全発電量の1.2%を消費した。2010年には2.1%に達する」という。そこで米国のITベンダーは、課題の解決に向けた取り組みを急いでいる。「グリーングリッド」と呼ぶ、データセンターのエネルギー効率の向上を推進する団体も発足した。