「2010年、新世代のハイエンド・サーバーが出揃う。その時に生き残るメーカーはどこか」。サーバー・メーカーの経営・技術戦略に精通する、ガートナー ジャパンの亦賀忠明リサーチバイスプレジデントと日経BP社の北川賢一コンピュータ・ネットワーク局主任編集委員が徹底議論。日経コンピュータ10月1日号の特集「サーバー・メーカー、生き残るのは誰?」のために、2時間にわたって繰り広げられた亦賀・北川対談の全貌を2回にわたって報告する。

対談者紹介
亦賀 忠明
亦賀 忠明(またが ただあき)
ガートナー ジャパン リサーチ バイスプレジデント
サーバーを含むITインフラストラクチャに関する技術や市場のトレンド分析、将来予測、ベンダー戦略分析と提言を手がける。
北川 賢一
北川 賢一(きたがわ けんいち)
日経BP社 コンピュータ・ネットワーク局主任編集委員
コンピュータ産業を35年間ウォッチし続けており、メインフレーマの経営・技術・営業戦略に精通している。
(写真:新関 雅士)

北川(賢一、日経BP社コンピュータ・ネットワーク局主任編集委員) 日本のユーザー企業がどのぐらい認知しているかは別として、ハイエンドサーバーを見たときに、プロセサ・テクノロジー面で新世代に入りつつある。そうした中、国産メーカーはどうなっていくのか。ユーザー企業はどう考えていくべきか。このあたりを考えたい。まず、サーバーの世の中が変わってきたというあたりから話してもらえますか。

亦賀 (忠明、ガートナー ジャパン リサーチ バイスプレジデント) 私なんかより、北川さんは正直どう思いますか、サーバーについて。

北川 いや、あなたが一番物知りなんだからさ。

亦賀  ハイエンドも含めて、サーバー・ハードウエアなんて、もういらないのじゃないかと思っている人が多い。本当にそうなのか、ベンダーもユーザーも真剣に考える時期に入ってきているでしょう。ベンダーにはハードは儲からないと言う人が多い。ユーザーもメインフレーム時代のようには重要視していない。ハードウエアというのは本当は重要なのだけれども。

北川 ハイエンド・サーバーだけは残るんじゃないのかね。ハイエンド以外はちょっと分からないけれど。

亦賀  日本でハイエンド・サーバーは必要なのか。そこから議論したい。

箱のばらまきは終わった

北川 統計データで見ると、ガートナーはどういう見解なの。

亦賀  統計的に、日本におけるハイエンド・サーバーの需要は世界のそれと比べて低い。

北川 1億円以上のサーバーという意味?

亦賀  1000万円以上のサーバー。日本の需要はアメリカに比べて全然低い。

北川 日本のお客さんのサーバーやストレージの装備率を見ると、失礼ながらプアだからねえ。それにローエンド・サーバーの性能が上がってきている。ローエンドで足りる処理能力しか使っていないのが日本のお客さん、ということかな。

亦賀  そう。真面目にリソースを計算しますからね。必要な分だけローエンド・サーバーを買い増しする。そのサーバーをちまちま使う。

北川 需要がないとハイエンドの将来を占ってもどうしようもないか。

亦賀  だから何で日本に需要がないかという話を先にしたいと思ったわけ。もっともこれは技術論ではなくて、経営の問題でしょうね。

北川 簡単に言うと、日本はローエンド・サーバーをまだばらまいているからでしょう。でもこれは、ベンダーの戦略が嫌らしいから。散々、分散といって、サーバーをばらまいてから、これからは統合だっていうんだから。

亦賀  面白い数字があります。今年の第1四半期と第2四半期、日本のサーバー市場は非常に悪かったんですよ。台数、成長率、ともに過去最悪。つまり、箱(サーバー)のばらまきが終わったということです。ユーザー企業が、「バラバラのサーバーはやっぱりよくないね」と言って買うのを止めた。といってハイエンドに移行したわけではない。ローエンドもハイエンドも全部落ち込んでいます。こんなケースは初めて。これも「仮想化効果」でしょうか。英語で言うと「バーチャライゼーション・エフェクト」ですね。

北川 ハイエンド・サーバーを買って、ローエンドを刈り取り統合するのが仮想化じゃないの?

亦賀  そうです。「統合しなきゃいけない」ってみんなが言っていた。でも、その受け皿というのは、実はそれほどはっきりしたものがないわけですよ。サーバー統合は大事とか、仮想化は大事と言うけれど、統合する先のサーバーが明確になってないんです。

日本とアメリカ、サーバー利用の相違点

北川 それもあるかもしれんが、日本とアメリカではサーバーの使い方が違うんですよ。風土というのか。僕はそう見ているけどね。

亦賀  風土?

北川 風土というか、カルチャーというか。アメリカは中央集権的で、IT予算はIT部門が全部仕切るでしょう。業務部門で分散してIT投資をすることはあまり許さない。つまり、ITガバナンスが利くわけですよ。日本は事業部制だから、事業部単位で予算を持っている。以前、フォレスターリサーチだったか、ガートナーだったか、米国の資料を見たけれど、日本の情報システム部門が握る予算は、世界全体のそれと比べて一番低いんだよ。つまり日本は事業部で勝手にIT予算を使っている。そういうカルチャーなんだよ、会社の仕組みが。事業部にとっては、事業本部長が社長なんだから。すると、事業部に入るコンピュータは、ハイエンドなんていらない。ベンダーが言うように、統合、統合と言っても、日本はそんなに必要がないと思うんだよね。

亦賀  今のままだとそういう傾向がありますよね。現場に任せるカルチャーとかいうのが。

北川 もっと言うと、日本のコンサルタントはあまり言わないけれど、アメリカはすぐ「全体最適」って言うでしょう。日本は部分最適ですね、それを変えましょうって。そのためには、でかいコンピュータを入れて、ERPパッケージを入れてとかと言うけれどね。

 アメリカの企業というのは、例えば物づくりを考えても、部品から作っているわけじゃないんだよ。彼らは組み立て企業なんだ。垂直統合ではない。だから彼らにとって、一番重要なのはサプライチェーンとなる。サプライチェーンの仕組みを作るためには、取引客も含めて全体最適をやってもらわないとできないわけですよ。

 日本はさっき言ったように、事業部であり、製造業といっても多種多様だから、全体最適よりも部分最適がはまりやすい。これは変わらない。日本で全体最適にすべきなのは、ERPの財務だけでいい。あとは全部、事業部に任せればいい。これは特に、製造業では変わらないと思う。

亦賀  まあ、カルチャーでいえばそうなんだけど。

北川 そうした背景があって、ハイエンド・サーバーまで必要なのか、ミッドレンジでいいのか、ローエンドなのかとか、という論議になるという気もする。