●新しい技術で既存のSIとは異なる事業を開拓
●Googleとは全く違う検索エンジンを作る
●単なる連想検索でなく“時間”をとらえる

 ネットに氾濫するブログや掲示板などの口コミ情報。ある商品、企業、事件、事象、人物などに対するイメージや感情は、それらを通じて人々の間に広がっていく。こうした人から人へと伝わる“話題”が、どのような言葉で語られているのか。その傾向をとらえるツールが、きざしカンパニーの検索技術「kizasiサーチエンジン」だ。同社が運営する検索サイト「kizasi.jp」で誰でも利用できる。

 例えば「年金システム」を検索すると、kizasiサーチエンジンは「年金システム」を含むブログの記事から「年金システム」を含む文章と、その前後の二つの文章にある単語を抜き出す。kizasi.jpで検索結果として表示される単語の一覧は、ここで抜き出した単語のうち登場回数の多い順番に表示されたものだ()。

図●「kizasiサーチエンジン」を使うと、指定したキーワードがどのような言葉で語られる傾向にあるのかを調べられる
図●「kizasiサーチエンジン」を使うと、指定したキーワードがどのような言葉で語られる傾向にあるのかを調べられる
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 検索結果に並ぶ各単語は、フォントの大きさに違いがある。実は、これがこだわりの解析技術。大きい単語ほど「年金システム」との関連性が高いことを表す。

 例えば年金システムの障害発生で、開発元のNTTデータに注目が集まった当時のブログ記事から検索すると、「NTTデータ」が大きなフォントで表示される。

「めがねっ子」ブームにヒント

稲垣陽一●代表取締役専務 テクノロジー統括
稲垣陽一●代表取締役専務 テクノロジー統括

 きざしカンパニーは、ソリューションプロバイダのシーエーシー(CAC)からスピンオフした企業。kizasiサーチエンジンも、「CAC技術研究センター」で開発されたものだ。現在はきざしカンパニーでテクノロジーを統括する立場にある稲垣陽一専務が、同センターで開発を引っ張ってきた。

 CACが検索エンジンの開発に着手したのは、2002年の後半ごろ。大手出版社と取り組んだ次世代検索エンジンの共同開発がきっかけだ。その責任者に就いた稲垣専務は、「ちょうど米グーグルの検索サイトが圧倒的な影響力を持ち始めたころ。大仰そうなことを言えばポストGoogleを狙った」と当時の熱い思いを振り返る。

 そこで目を付けたのが、自然言語処理でよく使われる「共起」という概念だ。二つの単語が同じテキストに同時に出現するパターンを分析し、単語同士の関連性の高さを見る。当初検討したアプリケーションは「連想検索」。一例が、キーワードに関連した企業名を引き出す「企業検索」だ。会社名を知りたいが、その会社名が思い出せない時に利用できる。例えば、「経営統合」で検索すると、「大丸」「松坂屋」「伊勢丹」といった経営統合絡みでネット上で話題になった企業名を引き出せる。

 しかし、稲垣専務の心は晴れなかった。研究者である同氏は以前から、「ある話題がメーリングリストなどを通じて瞬く間に広がっていく動きを、機械的に取り出せないかと研究してきた」。このため、次世代検索エンジンでも話題の移り変わりをとらえることにこだわった。しかし、開発成果は動きをとらえるに至っていなかった。

 転機が訪れたのは、ブログが急速に普及した2004年。当時、タレントの眞鍋かをりが自身のブログに眼鏡を掛けた画像を掲載。これをきっかけに「めがねっ子ブーム」が起こった。ブームの前後で眼鏡に対するイメージは一変。「格好悪い」「近眼」などネガティブだったイメージが、「かわいい」「ファッショナブル」と好印象なものに変わったのだ。

 この変化に驚いた稲垣専務は「共起という現象を時間で切り取って追っていくと面白いことができるのではないか」と考え付く。ブログの記事には必ず、書き込みをした日時が記録される。「ブログを元にして話題の変化をとらえられる検索エンジンを作ろう」。こうして2005年1月、kizasiサーチエンジンが誕生した。

 2005年12月には検索サイト「kizasi.jp」を開設。翌月の2006年1月にはβ版のレポーティングサービスを開始した。無料で提供したこともあり、登録者数は1万件を超えた。これに手応えを感じたCACは4月、kizasiサーチエンジンの事業化を決定。6月にはレポーティングサービスを有料化した。

 技術進歩や競争が急速に進むネット事業の展開には、迅速な意思決定が不可欠。ところが、受託開発が中核のCACでは、検討に時間をかけることが当たり前。求める経営スピードの違いから、CACは2007年1月、kizasiサーチエンジンの事業を分社化した。

 現在は、価格比較サイト「価格コム」の掲示板から口コミ情報を収集してランキング表示するといったコンテンツ配信サービスが好調だ。引き合いが多く、契約も増えている。事業推進策の一つとして、海外のブログサイトへの対応を予定している。