フレッツと他社のブロードバンドなどほかのネットワークを組み合わせて2重化する方法はいくつもある。フレッツに障害が発生した場合に限って,もう一方の回線にトラフィックをう回させるバックアップの形態が最も一般的だろう。他方で,平常時にも両方の回線を利用し,障害発生時には相互にバックアップを取り合うといった,回線を効率的に使える方法もある。手法によって運用負荷の大きさと設定の自由度のバランスが大きく変わってくる(図1)。

図1●フレッツともう1本のアクセス回線を無駄なく使うには大きく3通りの手法がある
図1●フレッツともう1本のアクセス回線を無駄なく使うには大きく3通りの手法がある

通信事業者に複数回線の運用を委託する

 まず運用負荷が最も軽い手法は,通信事業者やインテグレータに運用を委託することだ。特にフレッツを足回りにしたエントリーVPNを利用している企業なら,そのバックアップ向けメニューを真っ先に検討したい。

 というのも,エントリーVPNはユーザー拠点のWANルーターの運用を通信事業者が代行してサービスを提供することが多いからだ。回線を2重化してバックアップしたい場合も,対応するメニューとルーターを選ぶだけで,設計や運用を通信事業者にすべて代行してもらえる。

 例えば,NTTコミュニケーションズ(NTTコム)が同社のエントリーVPN「Group-VPN」向けに用意する「バックアップPlus(ACCA)」を見てみよう。フレッツ回線に障害が発生した際にアッカ・ネットワークスの最大12Mビット/秒のADSL回線でバックアップするサービスである。

 回線を切り替える仕組みはこうだ。WANルーターに,2本の回線それぞれに常にPPPセッションを張っておくよう設定する。フレッツとのPPPセッションが切断され一定時間が経過しても元に戻らない場合に,ルーターは障害が発生したと判断して通信経路をアッカのADSLに切り替える(図2)。フレッツ回線のPPPセッションが復活すれば,経路を元に戻す。

図2●NTTコミュニケーションズの「Group-VPN」向けのバックアップ・サービス「バックアップPlus(ACCA)」
図2●NTTコミュニケーションズの「Group-VPN」向けのバックアップ・サービス「バックアップPlus(ACCA)」
フレッツ回線に障害が発生した際にアッカ・ネットワークスの最大12Mビット/秒のADSL回線に切り替える。

 このバックアップ回線の料金は,ADSLモデムのレンタル料込みで月額3990円から。バックアップ専用のため,主回線にADSLを使う場合よりもかなり安く設定してある。

 NTTコムは割安な料金を実現するため,より高度なバックアップの対応はあえて見送っている。例えばVRRP機能を利用したルーターのホット・スタンバイ構成には対応しない。利用しているルーター自身はVRRP機能を備えるものの,「多様な要望に応じると,設計が煩雑になって保守費用を上げざるを得なくなる」(NTTコムのマーケティング部統合VPN販売企画担当の七里健司氏)と判断した。コールド・スタンバイのオプションは別途用意する。

二つの網に同じパケットを送るW-VPN 1000

 機器を導入するだけで,運用の手間が少なく2重化した回線を利用できる方法もある。その一例がアルファシステムズの「alpha W-VPN 1000」というVPN装置を利用する方法である。

 W-VPN 1000は,受信したパケットを複製して二つのWANポートに同時に送出する機能を備える。2本の回線に全く同じデータを流すため,一方の経路に障害が発生しても,もう一方の経路からパケットが届いていれば支障なく通信ができる(図3)。

図3●2本のアクセス回線に同内容のパケットを送出する「alpha W-VPN 1000」
図3●2本のアクセス回線に同内容のパケットを送出する「alpha W-VPN 1000」
対向のalpha W-VPN 1000に先に到着したパケットだけを送信先に転送する。この仕組みにより,一方の回線に障害が発生しても問題なく通信を継続できる。

 フレッツなどのベストエフォート型のサービスは,信頼性では専用線などに見劣りする。とは言え,複数のサービスが同時に障害で利用できない確率は低い。二つの網に同じデータを送信すれば,少なくとも一方の網で問題なく通信ができるはずという発想である。

 2本の回線に同じパケットを流す仕組みは,通信品質の向上にも役立つ。W-VPN 1000は,両方の回線からパケットが届いた場合は,先に到着した方を優先して採用する。この仕組みにより,遅延時間を低いレベルに抑えられる。通常のバックアップのように,回線を切り替える際の瞬断の影響も受けない。「パケットが少しでも失われると品質が劣化するIP電話などのアプリケーションに効果的」(アルファシステムズの岡田紀晋・経営企画本部技術推進部長)。

 W-VPN 1000に接続する回線は,帯域や品質がほぼ同じ回線を2本組み合わせることが望ましい。品質などが著しく異なる回線をペアにすると,良い方の回線から到着するパケットばかりを優先することになるからだ。その回線に障害が発生した途端,急に品質が悪化する恐れがある。

 例えばBフレッツと組み合わせるなら,ソフトバンクテレコムのブロードバンドイーサアクセスクリスタルや,USENグループの通信事業者であるUCOMのBROAD-GATE02などが候補になる。いずれもBフレッツの「ベーシックタイプ」並みの料金で,伝送速度が最大100Mビット/秒のインターネット接続サービスである。

 W-VPN 1000の価格は,3年間の保守料込みで税別35万円。中小拠点向けのVPNルーターと比べればやや高めだ。それでも,信頼性だけでなく通信品質の向上効果までを評価するなら十分に検討価値がある。