フレッツ網は,Bフレッツや「フレッツ・ADSL」など,NTT東西のブロードバンド・サービスの基盤となるIPネットワークの総称。「地域IP網」とも呼ばれている。主にユーザー拠点とインターネットなどのネットワークを結ぶ役割を担っている。

 NTT東西がフレッツ網を稼働させたのは1999年。定額ISDNサービス「フレッツ・ISDN」を提供するために構築したIPネットワークが原型である。

 その後,NTT東西はフレッツ網の伝送容量の拡張や機能強化を段階的に進めてきた。当初は県単位に閉じたネットワークだったものが,2003年には東西それぞれの営業エリア内で県間通信が可能になった。サービスの幅も広がり,NTT東西独自のエントリーVPNサービスやコンテンツ配信サービスが稼働している(図1)。

図1●フレッツ網の主な役割
図1●フレッツ網の主な役割
Bフレッツなどからインターネットや他事業者のIP-VPNサービスに接続する際に幅広く使われている。フレッツ網単独でのエントリーVPNサービスやコンテンツ配信サービスもある。さらにIP電話サービス「ひかり電話」の中継網としての役割を備える。  [画像のクリックで拡大表示]

品質を保証しないベストエフォート網

 フレッツ網は,通信品質を保証しないベストエフォート型のネットワークである。加入電話網や専用線と違い,複数のユーザーで帯域を共用する。網が混雑するとスループットが低下する。

 障害発生時に回復に要する時間などの保証も特になく,従来型のサービスに比べて信頼性では見劣りする。その代わり,フレッツ網を使って提供されるサービスのほとんどはコスト・パフォーマンスが優れている。

 ユーザーが接続先のネットワークを選べる仕組みを備える点もフレッツ網の特徴。1本のフレッツ回線で複数のプロバイダ網を使い分けたり,インターネット接続とフレッツ網上のサービスとの接続を切り替えたりできる。電話番号を切り替えて接続先を選べるダイヤルアップ接続の仕組みを,常時接続環境に持ち込んだ格好だ。

 接続先の切り替えには,PPP(point to point protocol)を使う。ユーザー・網インタフェースがイーサネットのBフレッツやフレッツ・ADSLの場合は,PPPoE(ppp over Ethernet)を使う。

 接続先を決める流れは以下のとおり。まずユーザー拠点側から,接続するネットワークのID情報をPPPフレームまたはPPPoEフレームに乗せて送出する。このID情報をNTT収容局にあるアクセス・サーバーが読み取り,トンネリング・プロトコルを使って該当するネットワークへと中継する。接続先のネットワークとは,一般にNTT中継局に設けるPOI(相互接続点)で接続している。

VPNやIP電話などのサービスを展開

 現在,NTT東西がフレッツ網を使って提供する主なサービスは,(1)アクセス回線,(2)エントリーVPN,(3)コンテンツ配信,(4)IP電話サービス「ひかり電話」──の4種類がある(表1)。

表1●フレッツ網を使った主なサービス
表1●フレッツ網を使った主なサービス

 (1)は,Bフレッツやフレッツ・ADSL,フレッツ・ISDNなどが該当する。1回線ごとに定額の通信料金がかかる。

 (2)は,(1)をアクセス回線に使うNTT東西独自のIPベースのVPNサービスである。規模に応じて複数のサービスをそろえる。大規模ネットワーク向けのフレッツ・オフィス シリーズや,小規模向けの「フレッツ・グループアクセス」(NTT東日本)と「フレッツ・グループ」(NTT西日本)などがある。NTT東日本は,リモート・アクセスや中小ネットワークでの利用を想定した「フレッツ・アクセスポート」というサービスも提供している。

 (3)は,コンテンツ事業者向けのサービス。フレッツのユーザーにコンテンツを一斉配信する用途を想定する。

 (4)は,加入電話と同じ番号体系である「0AB~J番号」を利用できるIP電話サービスである。ただし,ひかり電話用のトラフィックは,他のデータ・トラフィックと混在しないように設計している。0AB~J番号を利用する際に必要となる通信品質基準を満たすための措置である。

東日本と西日本では仕様が異なる

 名称こそ同じだが,東日本と西日本のフレッツ網は仕様に違いがある。NTT東西が地域性の違いを考慮して,それぞれポリシーを定めてネットワークを設計・運用しているためだ。

 NTT西日本は,以前からのIPv4ベースのフレッツ網とは別に,IPv6ベースの新しいフレッツ網を2005年3月に稼働させ,「フレッツ・光プレミアム」と呼ぶFTTHサービスを新設した。このため西日本には,IPv6ベースとIPv4ベースの二つのフレッツ網がある。

 NTT西日本が新しい網を構築したのは,FTTHの競合事業者に対抗するため。関西圏では電力系通信事業者のケイ・オプティコムが,戸建て住宅向けにインターネット接続とIP電話のセット・サービスを月額4900円で提供している。NTT西日本の同等クラスのBフレッツは,インターネット接続料金を含まずに同5670円と割高だった。

 そこでNTT西日本は,実効速度や安定性を高めたIPv6網を構築し,新しいFTTHサービスを開始した。テレビ電話やファイアウォールなどの付加機能を標準で提供し,高機能や先進性をアピールする戦術を打ち出したのだ。

 こうした経緯から,NTT西日本のサービス提供地域では,Bフレッツとフレッツ・光プレミアムという名前の似たFTTHサービスが併存する。両サービスは,フレッツ網内でのトンネリング方式などの仕様が異なる。

 このため企業がアクセス回線に利用する際は,両者を区別する必要がある。一部のサービスでは,光プレミアムをアクセス回線に使えない場合があるからだ。