ファーストリテイリングのグループ21社の情報システムを束ねるCIO(最高情報責任者)の岡田章二さんは、CIOの仕事を「システムに責任を持ち、システムの仕事をしないこと」と話す。責任は取るが、システム開発の手前の事業戦略や経営課題の解決に取り組むべきという意味だ。

 12月中旬、ユニクロダイレクト販売の事業改革会議が開かれた。売り上げ目標は1兆円、うちユニクロの国内販売でその6割、さらにその1割(600億円)をダイレクト販売で達成したいという計画だ。現在のダイレクト販売の売り上げが約100億円だから並大抵の努力ではこの数字は達成できない。会議メンバーの大半はダイレクト事業以外の人間で、岡田さんや関係役員の説明を疑心暗鬼で聞いていたが、最後は全員が腹に落ちたという。会議の焦点は、ダイレクト事業の戦略ではなく全社課題としてダイレクト事業戦略を理解することだった。店舗とダイレクト事業の連動なしにユニクロ国内販売の全体目標は達成できない。

 岡田さんは、常にITの枠にとらわれないリアルな調査に基づいた論理を展開する。顧客の購買行動、ロイヤリティーの醸成、ネットプロモーションの重要性と効率性。CIOの勉強会に呼ばれるたびに、IT戦略や技術の話題が中心になるのに違和感を覚える。それより大事なのは事業の問題解決や経営基盤をつくること。グループ全体の経営効率向上がCIOとしての岡田さんの仕事だ。

 そんな岡田さんのもう1つの信条は、「部下の成果にコミットする」という考え方だ。岡田さんが情報システムの仕事をやらないというのは、決して体を動かさないという意味ではない。事実、岡田さんは役員室にいることがほとんどない。常に現場で働く現場主義のCIOだ。先日も内部統制の責任者に指名され、新人を含むメンバーはこの難題に戸惑っていた。そんな時、岡田さんは、仕事の仕方や考え方を教えるために部下と一緒に仕事をすることにしている。途中までは一緒に走り、途中から走れると分かったら任せる。部下に成果を上げさせるのも使命だ。

 ファーストリテイリングでは柳井社長が代表に戻り業績が回復している。しかし、グループとしての課題は山積みだ。常に戦略ありのCIOが同社の成長を支えるのは間違いない。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA