テレビ局各社が構成する地上デジタル放送補完再送信審査会は,地上デジタル放送のIP同時再送信の可否を審査するための暫定ガイドラインを公開した。IP再送信の商用化に向けて一歩進んだ格好だが,記載された技術基準は厳しく,IP再送信を取り込みたい通信事業者は正念場を迎えている。

 ガイドラインには,IP再送信を実施する有線役務利用放送事業者とテレビ局が再送信同意を結ぶために,IP再送信のシステムが満たすべき技術基準や運用規定などが,初めて具体的に記載されている。例えば通常の放送との同一性確保のために,IP再送信のシステムは通常のデジタル放送と比べて2.5秒以下の遅延に収めること,映像・音声に対する字幕表示のタイミング誤差は,デジタル放送と比べて±3フレーム以下であることなどである。

 IP再送信は,NTTグループが1月末にNGN(次世代ネットワーク)のフィールド・トライアルで実験を開始し,5月には対象を一般ユーザーに拡大。2007年度中の商用サービス開始を目指している(図1)。テレビ局側からガイドライン案が出てきたことで,商用化のための条件が明確になった。

図2●サイバーエージェントが導入したNECの仮想PC型のシン・クライアント・システム
図1●IP同時再送信を巡る関係者の動き
8月初めにテレビ局各社で構成する地上デジタル放送補完再送信審査会が,再送信同意のための暫定ガイドラインを公表。商用化に向けて最終段階に入った。
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 しかし通信事業者側の表情は一様に固い。「ガイドラインに含まれる技術基準は現状ではクリアが難しい」(ある関係者)。商用化に向け新たなハードルを突き付けられた格好だ。

チャンネル切り替えだけで4秒かかる

 NTTグループのシステムでは,チャンネルの切り替えだけで4秒程度かかる。ガイドラインで示された2.5秒以下の遅延をクリアするのは困難だ。

 NTTグループのある幹部は「商用化の際には,現在よりも高性能なシステムを用意する。これからテレビ局と話し合いを進めて,再送信審査会が秋に公開予定の正式ガイドラインに向けた内容を詰める」と語る。是が非でも商用サービスを実現しようとする姿勢を崩していない。NTTグループにとってIP再送信や映像配信サービスは「NGN商用化のキーとなるサービス」(NTTグループのある幹部)なのだ。

 NTTにはグループ内の映像配信事業の体制を強化する動きも見える。NTTコミュニケーションズの有馬彰代表取締役副社長を中心とし,同社やぷららネットワークス,オン・デマンド・ティービーなどグループ内に複数存在する映像配信事業を一本化するためのチームをこの夏に発足させたもようだ。

 IP再送信を巡る関係者の綱引きは,2008年初めのNGN商用化に向けて,最終段階に入りつつある。