ケーブルテレビ(CATV)統括運営会社のジュピターテレコム(JCOM)は2007年9月5日,提供中のVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスのリニューアルを発表した。操作画面を使いやすくし,コンテンツも拡充する。VODサービスを拡充する背景には,追い上げの著しい通信事業者系の映像配信サービスと明確に差異化したいというCATV事業者側の狙いがある。

 かつて有料の多チャンネル映像配信サービスいえばは,CATVかCS放送しかなかった。CS放送に対して,CATV事業者は放送とインターネット,電話のトリプルプレーサービスの提供で優位性を打ち出し,加入者を獲得してきた。しかし通信回線の高速化に伴い,通信事業者が自社の回線を使った映像配信サービスを始め,トリプルプレーサービスを提供することも可能となったことで,CATVの優位性が揺らぎ始めた。それでもなおCATVには"地上波放送やBS放送の再送信"という奥の手があり,何とか優位性を保つことができた。

 ところが,2006年10月23日に放送番組をIP配信するための技術・運用ルールを検討する業界団体「IPTVフォーラム」が発足するなど、2008年にも通信回線を使ったテレビ放送の再送信が実現しそうな流れになっている。そこでCATV事業者が通信系映像配信サービスに対して優位性を保つために注目したのがVODサービスである。

 通信系の映像配信サービスと、CATVサービスを比較すると、技術面や事業面でCATVが優位な点がいくつかある。技術面では、もともとCATVの放送サービスを楽しむために、STB(セットトップボックス)にハイビジョン(HDTV)画質まで対応できるデコーダーが搭載されているので、それをそのままVODサービスに活用できる。さらにCATVのVODサービスでは伝送帯域を予め確保するため、ユーザーは安定した品質で映像を楽しめるという。また事業面では、CATV事業者がこれまでに放送事業で築いたコンテンツホルダーとの関係を活用しながら、VODサービス用の素材も同時に確保できる点に利点がある。

 このようにVODサービスではCATVの特性を活かして、ほかの映像配信サービスとの違いを打ち出しやすいが、まだ利用者の認知度が低く、十分な訴求力を持てていない点が課題となる。JCOMの場合、VODサービスを利用可能な利用者のうち、月に1度でもVODボタンを押すのは約3割に過ぎず、そのうち実際にVODコンテンツの購入に至るのはさらに少なくなるという。利用が低調な理由の一つとしては、コンテンツの数が不十分で見たい作品が少ない点が考えられる。レンタルビデオ店の平均在庫数はVHSとDVDを合わせて1万8637タイトルである。これに対しJCOMのVODサービスでは,カラオケの3000タイトルを除くと8484タイトルに過ぎない。VODをCATVサービスの切り札とするには、より一層のコンテンツの充実が今後の課題となりそうだ。