RIA(Rich Internet Application)コンソーシアム(以下,RIAC)の活動も4年目に入り,益々「RIA」という言葉と考え方を広めるための活動に熱を入れようとしている最中です。ですが,正直に言うと,頭の中には反対の「想い」が渦巻いています。「RIA」という言葉が一般的になるよりも早く,「Web」という言葉が「RIA」を飲み込んでしまうのかもしれない,あるいは,飲み込むべきなのかもしれない,そんな想いです。

RIAという概念の広がりとWebという概念(クリックすると別ウィンドウで表示します)

 HTMLを中心にして,足並みの揃わない各ブラウザと格闘しながら,エンドユーザーに喜んでもらうにはどうすれば良いのか,どうすれば迷子にさせない「作り」にできるのか。そんなことばかりに神経をすり減らしながら格闘してきました。でも,その辺りの苦労は多少なりとも減ってきているように思います。HTMLという絵筆だけで,クライアント企業も開発陣も納得できる品質と納期を守って実装完了することは,たやすい仕事ではありませんでした。余りに多くの技術的制限があったためです。

 それが,「RIA」という,多少漠とした概念ができてから,開発する側の「絵筆」も増え,開発体制を揃えないとアプリケーションとしての品質を確保できないという意識も芽生えてきました。Ajaxも「RIA」という範疇で語られることも増え,「リッチ・クライアント」という言葉すら「RIA」に含まれて来た気がします(おそらくは,「クライアント開発」というよりも「アプリケーション開発」と呼ぶべきだと開発現場が考え始めたためでしょう)。「RIA」が広くなった分,クライアントは漠然と指名することができ,開発者は様々な知識を持っていることが前提となってきました。開発者が何を得意とするかは副次的な選択肢となり,クライアント企業とユーザーにとって本当に望まれる「実装技術」を提案するという,開発者責任とも言える「モラル」も求められるようになってきています(何ができるかではなく,何をすべきか)。

 ちなみに,RIACでは「RIA」の定義をあえてしていません。会員企業間で戦略的な思惑があるという政治的な理由もありしますが,基本的に特定技術に依存しないで,ユーザーの求めるWebアプリケーションを追求していくのであるならば,その定義は必然的に時間と共に変化するだろうと読んだのです。しいて言えば,「RIAとは,豊かな表現力を持ちより機能的で,操作性の良いWebの仕組み」程度です。「使い勝手」を使う側の人間が決めるのであれば,それ以上のことは,時代が決めることだとしたのです。

 作り手側の意識の変化に応じて,発注側の意識も変わってきています。一見(いちげん)さんのお客様よりも,長期的につながりを持てるお客様。ただ価格にのみ敏感なお客様ではなく,どこで買うか,買うときの気持ちにまで,配慮をするお客さま。そうした変化は,Webという「場」自体に,いくつかの「守備範囲」的な「ナワバリ」が成立して来たためでもあります。

様々なWebサイトの守備範囲

 安さを求めるのであればこの辺り(サイト群),説明の親切度を求めるのであればこの辺り。ユーザーは,商品の価格だけではなく,その商品を購入するまでに自分が消費するコスト自体を意識し始めているのです。少し前のように,低価格だけをユーザーは望んではいません。たとえ商品の価格が安かろうが,セキュリティ上の心配や,意味のわからない画面でイライラするくらいなら,数百円の差であれば,安心感のほうを求めるユーザーも多くいます。その結果,様々な得意分野を備えたサイトが立ち上がり,しのぎを削って洗練されつつ生き残るべき所が生き残っていっています。

 ユーザーが行き場を選択しているのであれば,それを提供する企業側も,賢くそれを提供すべきです。従来の万人に受け入れられるサイトではなく,ある特性を持ったユーザーを囲い込むことに注意が行くのは当然です。自社の強みを活かせる「特性」を考えて,Web戦略を考え始めます。どこに投資すれば自社の強みが活かせるかは,何を訴えればエンドユーザーに「刺さる」のか。それを少し前に比べて,緻密に計算する時代に入ってきています。Webユーザーの目が肥えてきている現状で,いい加減なものや手抜きサイトは,すぐに見破られてしまいます。そして,企業が欲しいのは,そういった目の肥えた厳しいユーザーであるのも事実です。

あるキャンペーンで得られる注目度の寿命

 キャンペーンなどを通じて得られたユーザーは短期的には収益をもたらすかもしれません。しかし,多くの投資をかけて毎回キャンペーンを行うよりも,愛着を持ち,信頼をしてくれる優良顧客を育てたほうが,長期的な視野で考えた場合には収支的にも割が合うでしょう。さらに,例えば商品単位でキャンペーンを個別に打つことは,その企業イメージが微妙に変遷していくリスクも負うことになります(企業ブランドという主軸を守りつつ,各種複数のキャンペーンを展開することは非常に難しい作業です)。