セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長兼米国セールスフォース・ドットコムSVP(上級副社長) 宇陀 栄次氏
セールスフォース・ドットコム
代表取締役社長兼米国セールスフォース・ドットコムSVP(上級副社長)
宇陀 栄次氏

 日本企業のIT利活用を促進し、生産性や効率性を向上させる動きが活発化している。

 そうした中で注目を集めているのがSaaS(Software as a Service)だ。経済産業省や総務省も2007年に入ってから中小企業向けのIT導入支援策で、SaaS活用のための検討を始めている。


企業アプリケーションにWeb技術を活用

 SaaSは顧客のニーズにオンデマンドでソフトウエアを提供する供給形態。いわばグーグルやヤフーなどコンシューマ系Webで培われた技術を、企業向けアプリケーションに活用したのが当社システムだ。社員数人の中小企業から三菱UFJ信託銀行、郵政公社など数千人規模まで、全世界で3万5300社の企業が当社のSaaSシステムを利用している。

 ITは、今まで「所有する」考え方が中心であった。しかし、これからは「利用する」ということでいいのではないか。不動産であれば、「所有する」と資産価値が増えることがあるが、ITに関しては5年前のシステムを高値で買う人はいない。

 自社でIT資産を持つことは、開発期間がかかることも意味する。もし開発期間が長引けば企業を取り巻く経営環境は変化し、企業戦略も変わっていくだろう。結局、IT投資の効果を出す前に使われなくなるシステムを作り上げたことになってしまう。こうしたことがSaaS導入の背景にある。

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中小から大企業まで導入可能

 当社のSaaSシステムの導入事例をいくつか紹介する。

 社員10人強の配管設備工事会社である流体計画は、ビジネスを拡大させるために顧客情報を徹底的に活用することにした。そこで、顧客から問い合わせがあれば、住所や過去の取引情報などを検索し、町を回っている社員の携帯電話に内容を配信する仕組みを構築した。サーバーの自社運営を検討したが、コストがネックになり、当社システムの採用になった。しかも、顧客管理に加えて商談管理、売上予測、利益管理などが可能になり、その内容を金融機関に見せたところ、融資が容易になり、ベンチャーキャピタルからの投資にもつながったそうだ。

 ねじ問屋のツルガは1個1円未満のねじを、顧客にどう売り込んでいくかを検討していた。これまで顧客からの問い合わせに対応するだけだったが、事業を伸ばすには新規顧客の開拓も必要だったからだ。そこで商品販売情報、営業情報などを管理する仕組みを考えたものの、システム構築に数百万円から数千万円、開発期間に1年かかってしまうことが分かった。「そんな投資はかけられない」となり、1人当たり月額1万5000円の当社システムを採用することになった。結果、毎月売り上げが20%ずつアップしたという。

 不動産販売会社のライフステージでは、販売スタッフ間で交渉プロセスを共有し、交渉機会の損失を防ぐ策を練っていた。分譲マンションごとや営業フェーズごとに分かれていた年間2万組を超える顧客情報をデータベース化し、顧客・見込み客情報の一元管理を実現させ、顧客が求めるマンションを紹介するなどの仕組みを築いた。

 不動産販売会社のセイクレストは、早急にコンプライアンスを確立するために、自社で専用システムを開発することに比べて短期導入が可能なSaaSを選択。モデルルーム来場者の個人情報やアンケート情報を一元管理し、営業情報の集計は迅速化になり、プライバシーマークも取得できたという。

 ジョンソン・エンド・ジョンソンは、営業情報を扱う複数のシステムが運用しており、かつデータ入力や情報閲覧に手間がかかるという課題があった。そこで、営業情報の一元管理と営業施策の分析を可能にし、営業一人ひとりにパーソナライズできる当社システムの導入を決めた。

縦横のスケーラビリティがSaaSの特徴

 各企業の導入効果は、売上予測精度の向上、商談件数の増加、リピート顧客の増加など多岐にわたる。企業の数だけ、ニーズの数だけ効果があるといっても過言ではない。

 今あるビジネスをどう変え、どのように成長させるか。ここが企業にとって一番重要な点だが、そのためにはITを「所有する」ことから「利用する」ことへと発想を転換することがポイントとなる。ITの投資対効果(ROI)を数値で評価することが極めて重要な時代を迎えているからだ。

 そこに合致したのがSaaSだ。小さな会社から大きな会社まで、まったく同じようにサービスを提供できるという縦方向のスケーラビリティ、さらにネットワークをベースにして他社と連携してサービスを提供する横方向のスケーラビリティが、SaaSモデルの大きな特徴である。