マイクロソフト 代表執行役兼COO 
樋口 泰行氏
マイクロソフト
代表執行役兼COO
樋口 泰行氏

 マイクロソフトに勤務する前、ダイエー再生の仕事をし、企業戦略とITが非常に重要だと再認識した。ダイエーは再生期間が長く続き、短期的な利益を上げるために店舗投資やIT投資などの前向きな投資が遅れてしまい、それがハンディキャップとなっていた。情報戦略は長期的なプランに基づいて実行する必要がある。短期間にキャッチアップすることは難しい。そのことを肌で感じた。

 企業の競争力を考えると、新製品や新サービス、顧客満足、業務の効率化という「攻めの部分」においてIT自体がインフラとなるケースが多くなってきた。ITが新製品や新サービス開発の一部となっており、逆にITがネックとなって新サービスが提供できない事態も出現した。そのため、ITの責任者と経営者は一心同体にならないといけない。一方、コンプライアンスやCSR、システムトラブルへの対応という「守りの部分」も同様に重要である。


経営者とIT責任者は一心同体で

 企業の競争力を向上させるには、ITシステムを構築していく能力や効率的な活用を実現する力を身に付けないといけない。その能力によって企業競争力に差が生じるからだ。それにプラスして、複雑になったITを可視化して最適化するというITの問題にも取り組むことが求められる。そして、最終的には社員一人ひとりが潜在能力を発揮することが重要だ。そのかけ算で企業競争力が向上する。

 しかし、ITの実現力を身に付けることは簡単ではない。成果が出ている企業もたくさんあるが、ITプロジェクトの品質や予算、工期が予定通りに終わることは少なく、満足できる結果を得るのは難しい。

 ITの実現力とは、IT部門への要求とも言える。それは4つある。第1に問題をきっちりと認識する問題認識力、リスクを回避しない変革への強い意欲を持っていることだ。第2に経営的なビジョンを持って優先度を意思決定できる経営志向力も欠かせない。第3は利用部門とバランス感覚を持って対話したり、外部委託先との合意を形成していくコミュニケーション力が重要だ。最後に、コストやリソースを抑えつつ、チームビルディングでプロジェクトを遂行する能力が求められる。

IT実現力の醸成が企業競争力強化の道

 ITそのものに対する要求は、高品質、低コスト、俊敏性、柔軟性だ。それらの要求事項に対するソフトウエアの役割をにまとめた。

 高品質なITという要求に対して当社は資産を安全に保つセキュリティ製品やマネジメント製品を提供している。来年提供予定のサーバーOSであるWindows Server 2008はセキュリティ機能を大幅に向上させた。また、開発手順などセキュアなシステムを開発するために多くの取り組みを行っている。

 複雑になったITに対しては、ITを仮想化して簡素化する機能をWindows Server 2008に盛り込むなどの取り組みを進めている。また、俊敏性に対しては、迅速なシステム開発を実現する.Net Framework、SQL Serverなどの開発環境やミドルウエアを提案するとともに、開発環境+アプリケーションパッケージを提供して迅速にシステムを導入したいという要求に応えている。

 柔軟性に対しては、標準化とアーキテクチャの適正化によって拡張性や接続性、相互運用性をもった柔らかいシステムづくりに貢献するため、ソフトウエアの観点から取り組んでいる。以上によって、ITのトータルな最適化に対して十分に応えられる状況にある。

ソフトが社員の潜在能力を引き出す

 社員力を経営力とすることが今求められている。当社の製品はもともと幅広いインフォメーションワーカーが使い慣れていて操作が簡単だ。また、顧客ニーズを敏感にキャッチして常に革新している。ソフトウエア同士がシームレスに統合できる点も特徴だ。これらはまさに社員の潜在力を最大限に引き出す要素だと考えている。

 また、社員力を引き出すためにプレゼンス情報をべースとした生産性の向上に取り組んでいる。社員がスケジュール表にインプットするだけで、どこからでも、どういう形でも必要な情報につながり、コミュニケーションできるプラットホームも提供している。

 パソコンOSから始まった当社は、企業のITニーズ、経営ニーズに応えられる会社になりつつある。今年度、最も大切にしたいと考えているのは品質である。当社製品はミッションクリティカルなシステムに利用され始めており信頼性が向上しているが、世界で最も厳しい日本の顧客に対応するために品質体制を強化していく。また、もっと顔が見える企業になれるようコミュニケーションの強化を図っていく。