富士通 代表取締役社長 黒川 博昭氏
富士通
代表取締役社長
黒川 博昭氏

 昨年は、経営とITを一体化し、人とプロセスを進化させていくという話をしたが、今年はそれを進め、「フィールド・イノベーションの提案」の話をさせていただく。

 情報システムの課題は、人の役割や業務プロセスがITの中に組み込まれて見えなくなっていることだ。ITがブラックボックス化されているため、人の知恵が使いにくくなっている。そこで、プロセスを見えるようにすれば、人の知恵が使える。フィールド・イノベーションは、まず見える化することがスタートになる。


課題解決はIT以外のところにも

 フィールド・イノベーションのフィールドとは、現場という意味にとらえられがちだが、そうではない。課題を見つけて、その解決のために設定する対象領域のことである。

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 例えば新製品のヒット率を上げるには、社長のフィールドで考えなくてはならない。顧客、設計、開発、工場、調達、取引先のすべてを対象にしたアプローチが対象になるからだ。製品のコストダウンといった時には、製品担当常務のフィールドとなり、設計、開発、調達、取引先、工場が対象になる。

 大事なことは、フィールドのオーナーがイノベーションの責任者であるということだ。IT部門が責任者ではない。私は、課題解決のすべてが、ITから飛び込む必要はないとも考えている。

 ある銀行の案件において当社は、独自の現場観察手法を持ったチームを派遣した。そこで、業務の流れや人の意識、モチベーションを分析したところ、「フロアのレイアウトに問題がある」「午前9時に仕事が集中している」「役席者の負担が多い」「社員の立ち歩きが多い」ことなどを指摘。また、窓口業務や後方業務の改善、社員教育の徹底などの方がIT化よりも急ぐ必要があると判断した。そこまで見えると、ITに対して何が求められるのかも分かる。

 私が40年前にSEとしてシステム開発に携わったときに、顧客の経営、業務、事業を変えていくために、その企業の経営や業務を学び、分析、整理し、どこにITを使えばいいのかを考えた。こうした原点に戻ることが、ITをうまく活用することにつながるのだ。

フィールド・イノベータを年間200人育成

 経営や業務がよくならなければ、富士通が存在する価値がない。その1つのチャレンジが、ITを良くするITソリューションではなく、ビジネスソリューションを目指すことにある。

 ただ、ビジネスソリューションといった場合に、まだ能力不足な面がある。そのために、顧客の目線で考えるフィールド・イノベータの育成が必要である。今年下期から、製造部門のほか、調達、営業、経理部門の幹部社員を選抜して、顧客目線で語れる新たな人材を1年間で200人育成するように指示した。これを2年間続ける。

 富士通自身も、こういう人たちで構成されるイノベーション企業を目指したい。

 チャレンジしているもう1つの分野がある。属人的に行っていたインフラ構築を標準化していくことだ。これまでは優秀なSEを育てて、顧客対応を展開してきたが、インフラ構築の中工程と呼ばれる領域における400工程を標準化し、自動化の仕組みを作り上げられれば、工業化された環境の中でインフラを構築することができるようになる。

 業務記述とシステム記述を同期化することで、現場とIT部門が同じベクトルで仕事ができるようにするといったことにも取り組んでいる。これらは、フィールドで知恵を使って改善、進化をさせていく手法といえる。

 さらに、ビジネス・プロセス・アウトソーシングも強化していく。品質マネジメントの手法が分からない時に、富士通のノウハウを使えないか、デジタルエンジニアリングのリソースを使えないかといった点で、富士通の経験を提供できたら、提案は具体的で、より強くなるだろう。

富士通自身が顧客のリファレンスに

 富士通自身が、リファレンスになって、「うまくいったケース」「悪かったケース」を提案する。こうしたことがフィールド・イノベーションを支えることにつながる。

 これまでに9000の案件を分析し、そこから25の利用シーンを考え、6つのレベルを想定して、顧客にジャストフィットした提案を行える仕組みを作った。従来から追求してきた製品の高速処理や大容量、信頼性といった点に加え、低消費電力や軽さ、静かといった、使いやすさの価値も大切にしていきたい。

 富士通は、グローバル化した事業展開を進める。また、ビジネス活動統合基盤をベースに、インフラ構築手法の工業化、アプリケーションの業務活用に焦点を当てていく。それにより、顧客の事業成功に貢献し、顧客とともに成長していきたいからだ。