通信パターンで変わる提供サービス

 エミュレーション・サービスはPESが提供するので,通信ネットワークの構成パターンは,PESに収容した端末間の通信や,PESに収容した端末とほかのキャリアのPESに収容される端末あるいはPSTN/ISDNに収容される端末との通信に限定される(図3上)。

図3●エミュレーションとシミュレーションの構成パターン
図3●エミュレーションとシミュレーションの構成パターン
エミュレーションのPESにはIMS型とコール・サーバー(CS)型がある。他のIMSがつながる場合は,シミュレーションが提供される。
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 一方のシミュレーション・サービスはIMSが提供するので,通信パターンは,IMSに収容した端末間通信,IMSに収容した端末とほかのキャリアのIMSに収容される端末との通信に加え,非IMSのIP網に収容される端末との通信も含まれる(図3下)。

 さらに,自・他キャリアのPESに収容される端末との通信,あるいはPSTN/ISDNに収容される端末との通信についても,IMS側がエミュレーション・サービスをサポートできないため,提供されるサービスはシミュレーション・サービスになる。

三つある移行のシナリオ

 実際のネットワークのIP化とエボリューションのケースは,以下の三つに大別される(図4)。

図4●IP化の三つのケース
図4●IP化の三つのケース
(1)中継網のIP化,(2)加入者交換網からIP化,(3)加入者宅までのIP化の三つに分かれる。
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ケースA:中継交換網のIP化。ネットワーク全体がNGNに移行するまで既存交換機が並存する

ケースB:加入者交換機からIP化。ユーザー・インタフェースと端末はそのまま活用する

ケースC:加入者宅までのIP化。ホーム・ゲートウエイ(HGW)を設置し,IPインタフェースを提供する

 ユーザー・インタフェースや電話機をそのまま維持するという観点から,エミュレーションにはケースBが,マルチメディアやFMCなどの新たなサービスを展開する観点から,シミュレーションにはケースCが適している。ユーザーのブロードバンド加入率などにも依存するが,当面はケースBとCのハイブリッド運用になることも想定される。

 ブロードバンド国家を目指す政策や,新たな収入源を創出するという通信事業者の戦略から見た場合は,ケースCの推進が基本だろう。しかし,電話しか使わないユーザーの宅内機器をIP化する負担などを考慮すると,ケースBとの並存も必要となる。

 さらにケースBでユーザー端末は,事業者ビルからの給電で動作する。非常時に備えて蓄電池や発電機など何重にも対策が施され,社会セキュリティを維持できるネットワーク・インフラとして,優れた仕組みでもある。

ケースBでは集中制御型に

 AMGを使うケースBのプロトコル・アーキテクチャを詳しく見る。標準仕様では制御サーバー(AGCF)からのインタフェースは「通常H.248と考えられるが他のプロトコルも可能」と規定されているが,実際の候補としては,H.248とSIPが考えられる(図5)。

図5●ケースBのプロトコル・アーキテクチャ
図5●ケースBのプロトコル・アーキテクチャ
現行のアーキテクチャを踏襲した集中制御型に様々な利点がある。
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 H.248は制御サーバーに多くの機能を配備した集中制御型で,AMGをスレーブとしたマスター・スレーブ・モデルとなる。一方のSIPは,AMGにUAとして多くの機能を配備した分散制御型で,AGCFをサーバー,AMGをクライアントとしたクライアント・サーバー・モデルである。

 ここで以下の二つの理由により,ケースBにはH.248が適している。一つめは,集中制御型のアーキテクチャが交換機の構造をそのままネットワークに展開したものだから。エボリューションに当たって,現行の保守手順や交換機ソフト資産の利活用が図りやすいという利点がある。特にソフトの流用は,開発期間/費用の低減だけでなく,かつて作りこんだ品質を生かせるという利点がある。

 二つめは制御サーバーに比べて,多くの台数が導入されるAMGの機能が少ないこと。プログラムやデータの追加・修正などを制御サーバーに対して集中的に行えばよいため,保守稼動が低減できる。