プロジェクトを進めていると、ときおり重要な新要件が出てくるなど、常に状況が変化していく。そんな折、プロジェクトマネジメント層と現場のメンバーの間では、立場の違いなどが原因となって、両者の思考・行動のベクトルが離れていきやすい。ほうっておくと、プロジェクトがバラバラになる。プロジェクト全体のベクトルの方向を合わせ、成功へ導いていくには、PMOの支援が必要とされている。

川上愛二
マネジメントソリューションズ マネージャー


チームリーダー:「課題Aについてですが、ユーザー側の意思決定がなされず、進んでいません」

プロジェクトマネジャ:「どうして、課題Aの検討を続けているの? プロジェクトを左右する新要件が出てきたのだから、それに注力してくれ」

 プロジェクト全体進捗会議で、このような状況を見かけたことがないでしょうか。重要な新要件が出てきて、プロジェクト全体として新要件への対応を急ごうとしているというのに、肝心の現場がこれまでの仕事を引きずっていた…、という状況です。プロジェクトは日々変化していきますが、その際、マネジメント層と現場リーダーの間で進むべき方向性が噛み合わないことは、しばしば起こります。「再三、方向性を示しているのに、現場が付いて来ない」と憤りを感じているマネジャは多いかと思います。

 では、どうして、このようなマネジメント層と現場のギャップが起こるのでしょうか?

視野の違いが行動の違いを生む

 筆者は、組織階層における視野の違いがこのようなギャップをもたらすと感じています。プロジェクトマネジャは、「カットオーバー」を視野に入れて、プロジェクトの変化に対してアクション・プランを考えます。一方、現場リーダーは、フェーズなど「数カ月のスパン」で対策を考えています。現場メンバーでは、せいぜい「数週間」くらいの予定で動いているでしょう。開発期間が1年を超えるような規模のプロジェクトになれば、ますますマネジメントと現場のギャップが大きくなります。

 例えば、設計フェーズで出てきた課題について、現場リーダーが開発フェーズまでのスパンでしか対応策を検討していないとしましょう。そうるすと、カットオーバーまで見据えているプロジェクトマネジャから見れば、「場当たり的」な対応策にしか思えません。テスト・移行・運用保守のことまで検討をして、はじめて納得するのではないでしょうか。

 とはいっても、フェーズごとの納品に追われ、実ユーザーとの対応をしている現場としては、最終的なゴールを忘れてしまうことがしばしばあります。

重要な状況変化は、“ワン・ボイス”で伝える場を

 このような状況を打破する1番良い方法は、プロジェクトの要所でマネジメント層と現場の意見交換を行える場を、PMOが随時セッティングすることです。

 先の例のようにプロジェクトを左右する新要件が持ち上がった場合などは、全メンバーを集め、プロジェクトマネジャから対応方針、方向性を明示する場をセッティングすることが重要です。大規模プロジェクトになると、総勢100名以上になりますので、場所や時間などの調整が大変難しいですが、方針転換など重要事項をストレートに伝えるためには、全メンバーを集めて、プロジェクトマネジャの“ワン・ボイス(one voice)”で発信するのが有効です。

 PMOはこのような場のファシリテーションを行い、マネジメント層、メンバーのベクトルを合わせていくことが重要です。方針転換の各ポイントで、プロジェクトマネジャに提言してみてはいかがでしょうか。


川上愛二(かわかみ あいじ)

 大学卒業後、独立系SIコンサルティング会社のシーアイエス(現ソニーグローバルソリューションズ)に入社。グローバルSCMシステム開発などの大規模プロジェクトを経験。

 現在は、コンサルテーションから、自社開発のソフトウエア提供、改革実施後のチェンジマネジメントまで、「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズに在籍。各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp