ERP(統合基幹業務システム)最大手の独SAPは9月19日、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)形式の新製品「A1S(開発コード名)」を正式発表した。初めて同製品に触れた「SAPPHIRE 07 Atlanta」についてまとめた、日経コンピュータ5月14日号のニュースを関連記事として掲載する。

 2007年4月24日(米国時間)の「SAPPHIRE 07 Atlanta」の基調講演で、独SAPのヘニング・カガーマンCEO(最高経営責任者)は、「企業に求められているのは、ビジネスの変化に迅速に対応できる“柔軟”なシステム。これを実現するためには、SOA(サービス指向アーキテクチャ)が最適。M&A(企業の統合・買収)が続き、システムを構築するスピードが求められるなか、コストを下げるにはSOAしかない」と自信を見せた。

写真●SAPPHIRE 07 Atlantaの会場(左)と独SAPのヘニング・カガーマンCEO
写真●SAPPHIRE 07 Atlantaの会場(左)と独SAPのヘニング・カガーマンCEO

 カガーマンCEOは、SAP版のSOAである「Enterprise SOA(E-SOA)」の一層の推進を宣言。E-SOAに沿って開発した、中堅企業向けオンデマンド型ERPの新製品である「A1S(開発コード名)」を発表した。年内にも提供を開始する見込みだ。

SaaSは社外のプロセスの連携手段

 A1Sは「SOAを実現するために、新たにデータ・モデルやビジネス・プロセスを再定義した全くの新製品」(カガーマン氏)である。この製品では、「受注」や「在庫管理」など業務単位で、機能をサービス化して提供する。企業は、サービスを組み合わせて、業務に必要なシステムを構築する。動作基盤には、既存のアプリケーション製品と同じミドルウエア群「NetWeaver」を採用するという。

 これまでSAPは、CRM(顧客情報管理)やSRM(サプライヤ関係管理)の分野でしか、オンデマンド型のアプリケーションを提供していなかった。

 ERPをSaaS化する理由について、「システムを一刻も早く利用したいという企業の要請に応えるため」とカガーマン氏は説明する。SaaSについては、「自社内だけでなく、取引先などのパートナー企業を含めてシステムを連携させる際に、重要な手段の1つとなる」との見解を示した。

 同社には大企業向けのERPを基にした「All-in-One」という中堅企業向け製品がある。A1Sは、All-in-Oneよりも小規模な企業も対象とする。

 A1Sは大企業にE-SOAを促進させる役目も持つ。SAPPHIREでカガーマン氏は09年に、「Process Extensions(開発コード名)」と呼ぶ、サービス群を提供すると発表した。A1SはProcess Extensionsへの布石とみられる。

 Process Extensionsも、A1Sと同様にSaaSとして提供される見込みだ。カガーマン氏は09年の時点で、「NetWeaverという基盤のうえで、インストールして企業が利用するソフトも、オンデマンド型のサービスも自由に連携できるようにする」と話した。

 Process Extensionsは、ERPやCRMといった既存のアプリケーション製品を補完するための、細かな機能を提供するサービス部品群になるとみられる。

 詳細はまだ発表されていないが、Process Extensionsは、企業が自らコンポジット(複合)アプリケーションを作成する時に用いるサービス部品となるもののようだ。コンポジット・アプリケーションとは、サービス化したアプリケーションの機能の一部を組み合わせ、新たな機能を持つ別のアプリケーションを作成することだ。

 すでに欧米でSAPは、xAppsと呼ぶ数百種類のコンポジット・アプリケーションを投入している。Process Extensionsは、アプリケーションとして利用可能なxAppsの作成を補完する部品となる見込みだ。

Web2.0で社内のプロセスを統合

 もう1つ、E-SOAを推進する概念としてSAPが打ち出したのが「Web2.0」である。

 SAPPHIREでは、07年内の出荷を予定しているポータル構築ソフト「NetWeaver Portal」の新版に、WikiやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)といった機能を追加すると発表。Web2.0の特徴であるユーザー参加を製品に取り入れる。

 Web2.0で利用する技術を取り込む理由について、「社内の非定型的なビジネス・プロセスを、定型的なプロセスと統合することだ」とカガーマン氏は説明する。

 SAPが提供しているERPやCRMなどのアプリケーションでは支援できない非定型の業務も、社内には数多く存在している。電子メールを使った社内外のコミュニケーションや、表計算ソフトを使ったレポートの作成などが代表例だ。

 こうした業務を、「WikiやSNSにより、SAPのアプリケーション上で扱えるようにする」(米SAP LabsでNetWeaverソリューションマーケティングのシニア・バイスプレイジデントを務めるオリ・インバー氏)。

 Web2.0を取り込むのは製品だけではない。SAP自身も製品開発のプロセスにおいて、コミュニティやSNSを活用していく。SAPPHIREの開催に合わせ、顧客企業向けのSNS「カスタマー・コネクト」を立ち上げると発表。独SAPの共同創業者で、製品開発の総責任者を務めていたハッソ・プラットナー氏は「顧客やパートナーなど、コミュニティの意見なしに新製品の開発はあり得ない」と強調する。

E-SOAの普及に注力

 SaaSやWeb2.0の話題が多かったものの、「SAPにとって、最も重要なことは、E-SOAにのっとった製品を出すことと、価値を顧客に伝えることだ」とカガーマン氏は強調する。

 現在、E-SOAに基づいた最新版「ERP 2005」を導入しているのは、全世界で4万社に達する顧客のうち2000社程度だ。SAPは02年に「07年までにE-SOAを実現する基盤やアプリケーションを提供する」と宣言。昨年、E-SOAに完全に基づいたERP 2005を出荷した。

図●SAPPHIRE 07で独SAPが発表した2012年までの製品戦略
図●SAPPHIRE 07で独SAPが発表した2012年までの製品戦略
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 SAPPHIREで開かれた記者会見で、カガーマン氏は「自社に合ったシステムを求める日本企業にとってE-SOAは最適な考え方。もっとE-SOAの価値を伝えていきたい」と話した。

 日本では、R/3 4.6Cなど旧バージョンの製品を利用する企業の比率が高いうえ、アドオン(追加開発)などが原因でバージョンアップが難しくなっている顧客も少なくない。この点について、カガーマン氏は「日本の状況はよく分かっている」とも語った。