9月1日に実施された東京都の防災訓練のニュース記事(「NTT東などが都の防災訓練に参加,通信回線の復旧訓練や移動基地局を披露」)を執筆したり,9月3~7日に連載した特集記事(「改めて知っておきたい,携帯電話の災害対策」)の編集を担当したりしたこともあり,今年は例年以上に「防災対策」について考えさせられる機会が多かった。わが社の防災対策に関しては,わが社のしかるべきセクションに任せるとして(もちろん一社員として全面的に協力する),筆者が思いを巡らせたのは,わが家に関する防災である。

 自宅の防災対策としてまず考えなければならないことは,家具の転倒防止策や避難所の位置確認,非常用の飲料水や保存食料の準備などだろう。ただ,こうした対策が一通り済んだ後は,ITに関しても,きちんと対策を考えておくべきではないかと感じている。

 災害発生時に,素早く家族の安否を確認したり,会社などに自分の状況を報告するには,通信手段を持っていなければならない。ところが,災害に伴う停電により,通信手段が確保できなくなる可能性がある。また,普段はインターネットを駆使してさまざまな情報を収集している人が,停電により,いきなり情報収集手段が電池駆動のラジオだけになってしまうのでは心許ないだろう。

 ということで今回は,固定電話,携帯電話,インターネット接続の3点について,“わが家のIT防災対策”にはどのような着眼点があるかを考えてみたい。

固定電話:給電対応電話機でなければ電話は使えなくなる

 まずは固定電話。災害時に停電が発生した場合には,固定電話が使えなくなることがある。これに対しては,きちんと対策を考えておいた方が良いだろう。

 加入電話網(普通の電話回線)は,NTT局からの給電により,自宅が停電していても電話の発着信は可能となっている。NTT局には自家発電装置が備え付けられているため,付近一帯がすべて停電していたとしても,NTT局からの給電が途切れることはまずない。

 ただし,加入電話であれば間違いなく停電時も使えるのかというと,そうとも言い切れない。局給電に対応していない電話機があるからだ。例えば,FAX機と一体になっている電話機の場合は,停電時に発着信が不能となるものが多い。停電時にも使えるかどうかはカタログやマニュアルに記載されているので,確認しておきたい。マニュアルなどが見あたらない場合は,一度ACアダプタを抜いて発着信が可能かを試してみると良いだろう(履歴情報などが消える可能性があるので,その点はご注意を)。また,コードレスの受話器しかないタイプの電話機は確実に局給電だけでは通話できない。電源が切れると,電波を飛ばすことができなくなるからである。

 もし局給電で動作しない電話機しか持っていない場合は,留守番機能もなにもない“単なる電話機”を準備しておく方が良いだろう。家電量販店などで2000~3000円で販売されている。

 またNTT東西地域会社の「ひかり電話」など,光ファイバ経由のIP電話サービスも要注意だ。加入者宅に設置する回線終端装置やIP電話アダプタの電源が落ちてしまうと,電話をかけることも受けることもできなくなる。光ファイバを使うIP電話は,03などで始まる「0AB~J番号」が使え,従来の加入電話とほとんど同じように使えるものの,局給電という仕組みだけはマネできない。なぜなら銅線を使っている加入電話とは違い,光ファイバは電気を通すことができないからだ。

 停電発生時にも光ファイバ経由のIP電話サービスを使い続けるには,無停電電源装置(UPS)を準備しておく必要がある。個人でUPSを購入することももちろん可能だが,NTT東日本のひかり電話の場合は,NTTファシリティーズの「あんしんホッとサービス(ひかり電話対応)」というサービスを利用することもできる。これはUPSと4年間の「センドバック保守」をセットにしたサービスだ。NTT西日本管内の場合は,NTTネオメイトが同様の「ひかり電話 停電安心サービス」を提供している。ただし現在のところ,対象地域は大阪府のみ。あんしんホッとサービス,停電安心サービスともに,UPSでサポートするのは約30分間としている。

携帯電話:あえて家族割引を利用しないという手も

 いまや固定電話よりも重要な通信手段と言えるのが携帯電話だ。携帯電話事業者がどのような災害対策を行っているのかについては,冒頭で紹介した特集記事に詳しいが,結論から言うと,携帯電話は高いレベルで災害時にも使い続けられるようさまざまな対策を行っている。とはいえ7月に発生した中越沖地震では,地震発生直後に,ソフトバンクモバイルの基地局が93局も停止してしまった(当日の夜には22局を除き復旧)。携帯電話ネットワークが全面的にダウンする可能性は低いとしても,自宅付近が確実に大丈夫とは言い切れない。

 となると,取り得る対策の一つとしては「同居家族は複数事業者の携帯電話を契約しておく」ということが挙げられる。複数の事業者で同時にトラブルが発生する確率は低いと言えるからだ。もっとも,災害発生時に家族が一緒にいるとは限らないので,この対策も確実とは言い切れない。ただイザというときの選択肢が増えることは安心感を生むだろう。

 家族の契約する携帯電話事業者がバラバラだと,「家族割引」サービスは利用できなくなる。費用はかさむことになるだろう。ただ最近は,加入者一人でも最初から基本料金が5割引きになるサービスが登場しており,こうしたサービスを利用することで負担増は軽減できる。