モスフードサービスの永井正彦氏(管理本部 情報システムグループ グループリーダー)のこだわりは検索速度だ。それも“劇的な”ほどの速さにこだわっている。限られた予算のなかで検索速度を向上させるには,基幹系システムとは異なる発想が必要になる。そこで注目したいのは,DWH用アプライアンスやインメモリーDB,キャッシュ――などの技術である。

 今回からはモスフードサービス,サークルKサンクス,セブン-イレブンの3社のシステム担当者が登場する。各社の担当者が検索速度の向上をどのように実現したか,順に紹介しよう。

突き抜けるようなスピードに

 モスフードサービスの永井氏は,1999年に構築した情報系システムの速度低下に悩んでいた(図1)。構築した当初は満足のいく検索速度だったが,データ量の増加や複雑な検索条件が増えたことが影響し,徐々に検索速度が低下していった。対象データが多い検索だと応答に数十分かかるケースや,場合によっては応答が返って来ないこともあった。

図1●モスフードサービスが速度低下を克服するまでの経緯
図1●モスフードサービスが速度低下を克服するまでの経緯
実績の乏しいDWH専用アプライアンスをテストし,高速だったので導入を決定
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 検索速度を向上させるためにデータ・ウエアハウス(DWH)のチューニングやハードの増強なども検討したが,「あくまでもその場しのぎの対策であって,根本的な解決にはならないので,手を出さなかった」(永井氏)。

 2005年11月に転機が訪れる。会社の方針として,データ活用をこれまで以上に推し進めることが決まった。情報分析機能を備えるBI(Business Intelligence)ツールを検討し,導入することになった。

 しかし永井氏には,BIツールを検討する前に解決しなければならない問題があった。検索速度を抜本的に向上させるにはどうすればいいか,という問題だ。永井氏は,「いくらよい切り口で分析しようとしても,検索速度が遅ければ宝の持ち腐れ。なんとしても,突き抜けるような速度の出る手段を考えなければならなかった」と当時の心境をこう語る。

 そんな中,DWH専用アプライアンスの存在を知った。日本ネティーザが販売する「Netezza Performance Server(以下,NPS)」である。NPSはサーバーとディスク装置,RDBMSが一体となった製品である。このアプライアンスは,複数の「SPU(スニペット・プロセッシング・ユニット)」という部品の集合から成る。一つのSPUには,ハードディスク,CPU,メモリー,DBエンジンを内蔵しており,これらがクエリーを並列処理することで検索速度を高めている。

 通常のサーバーとディスク装置の組み合わせでは,ディスク装置に格納したデータを,SCSIやファイバ・チャネルのケーブルを通して一度サーバーのメモリーに載せ,そこで検索条件に合うデータを絞り込む。そのため検索条件で絞り込む前の大量のデータがSCSIなどの(たいてい1本の)ケーブルを通ってくるのでそこがボトルネックになりやすい。それに対してこのアプライアンスでは,SCSIやファイバ・チャネルなどの,サーバーとディスク装置を結ぶケーブルがない。一つのSPU内にメモリーとディスクがあるので,ディスク入出力がボトルネックになりにくく,大量データを参照するのに効率の良い仕組みになっている。

 永井氏は,「仕組みを聞いて速そうな予感はあったので,どれほど速いのか実際に試してみようと思った」と振り返る。どれだけ速いかを調べるため,DWH用のサーバーとしては名が知れた製品(製品Xと表記)と比較した。実際の一部のデータを使い,次の2種類の検索条件で検索時間を測定した。

 検索条件1は,「どの店でどの商品が売れたかを個品単位で示す明細データ6カ月分から,南関東販社の2カ月分のデータをメニュー別に抽出する」というもの。検索条件2は,「3年分の時間帯別かつメニュー別のデータから,東京支部の2カ月分のデータを抽出する」というもの。いずれも,そのとき使っていた情報系システムでは,結果が返って来ないくらい時間のかかる検索条件である。実際の運用では複数の利用者が同時にアクセスするので,同時検索1人の場合と5人の場合のそれぞれを計測した。

 結果はいずれもNPSが上回った。例えば検索条件1で同時検索が1人の場合,NPSの4.8秒に対して製品Xは221.4秒だった。同じく5人の同時検索の場合,NPSの19.6秒に対して製品Xは1132.3秒もかかった。検索条件1の場合は,NPSが約50倍前後速いことが分かった。検索条件2の場合,同時検索1人ではNPS2.4秒に対し製品X3.4秒,同時検索5人の場合はNPS9.4秒に対して製品X10.8秒だった。

 NPSの速さは証明されたが,永井氏がNPSの導入を検討していた時点では,日本での実績は皆無だった。しかし永井氏は導入を決断した。「ほんの少し速いだけでは導入しなかった。導入実績がないというリスクを背負ってもよいと考えられるほど,高い性能だったので導入を決めた」と語る。

 NPSを導入したことで,利用者から「応答速度が速いので,思考を止めずに分析に集中できるようになった」と喜ばれているという。また,検索速度が速いので,これまでより大量のデータを分析対象にできるようになった。DWHに格納する明細データはこれまで5年分だったが,それを10年分に増やした。