タカラインデックスeRラボの神谷謙五氏(データベースマーケティング部 マネージャー)のこだわりは,新システムや新機能をリリースするまでの時間の短さだ。情報系では次々と新たな要求が出てくるので,それにいかに早く応えられるかが重要だと説く。そこでポイントとなるのは,開発生産性を高めることだ。プログラムを作らないという視点も重要になる。

 今回からはタカラトミーのほか,モスフードサービスとサークルKサンクスのシステム担当者の取り組みを紹介する。システムを刷新したり新機能を追加したりするときの,開発期間を短縮する工夫である。

短期開発にとことんこだわる

 タカラインデックスeRラボの神谷氏らは2006年6月,玩具を製造・販売するタカラトミーの情報系システムを構築した。タカラインデックスeRラボはタカラトミーの関連会社であり,情報系システムの構築やデータベース・マーケティングの企画・運営などを手がける企業だ。

 タカラトミーの社員はこの情報系システムで顧客情報や顧客の声を分析し,商品企画やマーケティングに積極的に活用している。具体的には,Webサイトで収集した顧客へのアンケート結果や,商品のファンクラブ・サイトから収集した意見を,BI(Business Intelligence)ツールである「SAS BI Server」を使って参照したり分析したりしている。これにより,どの年齢層がどのような商品を買っているかが分かるという。

 神谷氏がタカラトミーの情報系システムの構築でとことんこだわったことは,とにかく早く利用者に使ってもらうために,いかに開発期間を短くするかだった。それは,「情報系システムの利用者のニーズは,基幹系システムと比べものにならないくらい変わりやすい。1日でも開発期間が長引けば,それだけ利用者のニーズとずれが生じ,使えないシステムになってしまう」(神谷氏)との考えを持っていたからだった。

図1●タカラトミーは市販ツールをプロトタイプとし,短期リリースを実現した
図1●タカラトミーは市販ツールをプロトタイプとし,短期リリースを実現した
プロトタイプの代わりに市販の分析ツールを利用。これにより,プロトタイプを開発する期間を短縮した。その後,要求を取り入れ,ユーザー・インタフェース部分は自社開発した
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 しかし,情報系システムを短期間で構築するのは簡単ではない。なぜなら利用者のニーズを確実に把握するのは難しいので,利用画面のプロトタイプを作り,利用者に使ってもらって改修し,再びプロトタイプを作るという一連の作業を繰り返しながら開発することになるからだ。つまり,有効な機能を見つけるのに時間がかかってしまうのだ。逆にプロトタイプを作らずに開発すると,利用者のニーズとかけ離れてしまいがち。ニーズを満たしながらも,できるだけ時間をかけずに開発しなければならない。この難問に神谷氏は頭を悩ませた。

 神谷氏が着目したのは,プロトタイプの作成にかかる時間だ。最終的に提供する利用画面は,使い勝手を優先させると自社開発せざるを得ないと考えていた。だからといってプロトタイプも自社開発する必要はないのではないか。プロトタイプの利用段階では,どのような画面デザインにするか,どのようなデータ項目や検索条件が必要かなど,利用者も開発者も手探りしている状況である。

 プロトタイプはニーズをつかむためのものと割り切ってしまえば,市販のツールでもよい。そう神谷氏は考えた。市販の分析ツールを利用者に使ってもらうことでニーズを引き出し,そのニーズに基づいて利用画面を自社開発することで期間を短くする(図1)。

要望はきちんと反映

 神谷氏の目論見通り,開発期間を短縮できた。「プロトタイプを自社開発すると,おそらくニーズの拾い出しに2,3カ月かかる。それを1カ月で完了できた」(神谷氏)。

 市販の分析ツールであっても,ニーズをきちんと拾い出すことができた。例えば,プロトタイプ(市販ツール)では検索条件として年齢を選べるようにしていたが,「0歳から2歳までぐらいの乳幼児は,たった1カ月でも大きな違いがある。年齢だけではなく,0歳6カ月や1歳1カ月のように月齢で検索できるようにしてほしい」との要望があった。

 また,同じ12歳でも,小学6年生と中学1年生では購入する商品の傾向が違うことから,「学年単位で分析できるようにしてほしい」という要望もあった。神谷氏は,いずれも納得のいく意見だと考え,自社開発した画面の検索条件に取り入れた。

 また,今後の改修作業を見越し,できるだけプログラムを修正しなくてもよいような工夫を施した。それは,新商品のアンケートが新たに設けられたときや,既存商品のアンケートに新たな質問項目が増えたとき,必要な追加項目を情報系システムに取り込んで,検索条件として自動的に画面に反映させるというものだ。

 神谷氏は,「(アンケートで)せっかく新しいデータを取得できても,利用画面の改修に時間がかかり,利用者が参照できるまでに時間が経ってしまうのは避けたかった」とその狙いを語る。