文:庄司 昌彦=国際大学GLOCOM助教/研究員

地域SNS全国フォーラムの様子
地域SNS全国フォーラムの様子。
井戸敏三兵庫県知事の写真
冒頭の挨拶に立つ井戸敏三兵庫県知事。

 mixi(ミクシィ)などに代表されるSNS(Social Networking Service)の仕組みを、地域活性化やまちづくりのツールとして使おうという「地域SNS」が全国に広がっている。

 2004年12月にサービスを開始した熊本県八代市「ごろっとやっちろ」の成功を受け、2005年度からは総務省と地方自治情報センター(LASDEC)が全国の地方自治体で実証実験を行っている。そのほか、NPOや民間企業などによる開設も相次いでおり、地域SNSは全国数百カ所にまで増加している。

 この地域SNSの運営者や利用者、研究者等が一堂に会する「地域SNS全国フォーラム」が8月31日、兵庫県などの主催により神戸で開かれた。会場には、主催者が当初見込んでいた300人を大幅に上回る550人もの人々が全国から集まり、大盛況であった。

「ひょこむ」のパワーと参加者の熱気

 舞台となった兵庫県は、いまや地域SNSの一大中心地だ。兵庫県の地域SNS「ひょこむ」は、老若男女、県内各地のさまざまなユーザー約2800人が参加し、全国でも有数の規模と賑わいを誇る。地域SNSの運営に関心を持つ多くの人がひょこむに参加して主宰の和崎宏氏などから運営ノウハウを学んでいるほか、ひょこむが採用しているOpenSNPというSNSプログラムを採用する地域SNSが県内外に増えている。県も地域SNSの活用に積極的で、多くの県職員が一般ユーザーに混じって参加し、行政課題を論じたり、県民等との交流に活用したりしている。今回のフォーラム開催にあたっても、多くの「ひょこまー(=ひょこむのユーザー)」がボランティアスタッフとして参加した。

 盛り上がっていたのは兵庫の人々だけではない。550人の参加者のうち、ほぼ半数は県外からの参加者で、プログラム開始前からポスター展示や事例発表会などを行い、また当日の夜や翌日には神戸と姫路の2ヶ所でオプショナルツアーを実施するなど、地域を越えた交流を活発に行った。

単なる「交換日記と公開掲示板」なのか?

 今回のフォーラムのテーマは「地域SNSが、地域を変える、社会を変える」だった。裏を返せば「地域SNSは単なる『交換日記と公開掲示板』なのか」ということでもある。

 この「交換日記と公開掲示板」という言葉は、数日前に「ひょこむ」を使い始めたという井戸敏三兵庫県知事が冒頭の挨拶で述べた地域SNSに対する印象だ。この言葉には「何のために地域SNSというツールを活用するのか」という本質的で重要な問いが含まれており、その後の議論を充実させる触媒となった。

 開催された3つの分科会では「地域SNSを活用したコミュニティ活性化」「地域SNSを活用した地域間交流」「地域SNSと地域通貨との連携」という具体的なテーマが議論されたが、知事の言葉によって、SNSでのコミュニケーションを楽しむだけでなく、そこから何が生まれるのか、どのような発展の可能性があるのか、ということを考えようという積極的な意識が参加者に共有されていたと思われる。

オフ会・協働が地域SNSの醍醐味

 既に指摘されていることではあるが、分科会での議論や事例紹介を通じて改めて明らかになったのは、コミュニケーションが活発な地域SNSでは、さまざまな形の「オフ会」も活発だということだ。地域SNSはネット上のツールであるが「地域」で行っているため、ユーザー同士が実際に会って何かをしようということになりやすい。またSNSは、イベント企画など大勢で知恵を出し合う協働作業の「場」として活用することができる。

 たとえば京都山城地域の「お茶っ人(と)」では、SNSのコミュニティ発の農業イベントなどがたくさん生まれた。また青森県八戸市の「はちみーつ」では、ユーザーの自発的な情報提供によって「冠水危険地マップ」が作成されたという。このように地域SNSを活用して行われる協働作業によって人々は、互いの結びつきや信頼関係を強化し、地域への愛着や安心感を深め、生活の利便性を向上させていくことができるのではないだろうか。

つながりをどう発展させるか

 今後の発展可能性としては、地域SNSと「地域通貨」の連携が関心を呼んだ。これは、SNS上の「顔が見える関係」を、地域内経済循環や助け合い関係の基盤として活用しようというものだ。たとえば、地域SNS上で地域通貨を流通させると、支払い時に必ず何らかのメッセージ交換を伴わせる仕組みにすることができる。金の支払いにいちいち会話が伴うのはわずらわしいともいえるが、ここから新たな人間関係が生まれ、地域内の交流が促進される。今回のフォーラムでは参加者が「ひょこむ」のユーザーとなって各地から持参した土産品をひょこむの地域通貨「ひょこポ」で交換するという試みが行われ、確かにこのやりとりをきっかけとして新たな友人関係がたくさん生まれていた。

 このように今回のフォーラムでは、地域SNSに関わるたくさんの人々が初めて出会い、互いを知り、つながることができた。運営者や研究者ばかりではなく、一般の地域SNSユーザーの人々にとってもその喜びや楽しさはとても大きかったようで、会場はどこへ行っても一日中大変な賑わいであった。「地域SNSで何ができるのか」という知事の問いには引き続き取り組まなくてはいけないが、まずは地域を越えたつながりがたくさん生まれたということが大きな成果だといえよう。

 次回の全国フォーラムは3月に横浜で行われる予定だが、「ミニ全国フォーラム」とでもいえそうな地域間交流を行おうという動きがフォーラム終了直後から既にあちこちで起こっている。地域SNSはついに「知る人ぞ知る」存在ではなくなり、加速度的な普及段階に入っていこうとしてる。

庄司 昌彦(しょうじ・まさひこ) 国際大学GLOCOM助教/研究員
1976年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科修士課程修了。主な関心は情報社会学、政策過程論、電子政府、地域情報化、ネットコミュニティ。共著に『地域SNS最前線 Web2.0時代のまちおこし実践ガイド』(2007年、アスキー)、など。