「上流コンサルティングでも、ITサービス企業に期待するユーザー企業は多い」。これが2番目の真常識だ。

 「専門家からはっきりと、『ITサービス企業には無理』と言われた。しかし事業化は正解だった」。こう語るTIS エンタープライズソリューション第1部の中村清貴部長は、2006年に参入した内部統制の上流コンサルティングサービスの成果に自信を深めている。これまでに手掛けたユーザー企業は、大小の案件を合わせて20社。コンサルティング部門のスタッフ約40人に対し、現在も手一杯に近い案件を抱える。

 TISのように、J-SOX対策の上流コンサル事業に乗り出すソリューションプロバイダは急増している。NTTデータや三井情報、日立製作所やNEC系列のITサービス企業など、米SOX法対応を自ら経験した企業が目立つが、CSKや大塚商会、日本ビジネスコンピューターなどの未経験組も多い。濃淡はあるが、出遅れぎみのシステム商談に対し、各社の事業はおおむね好調という。

 これらの企業が上流コンサル事業に期待するのは、システム商談への誘導だ。大塚商会スマイルプロモーション部マーケティング企画部の石井ふみ子次長は「上流コンサルを押さえれば、ユーザー企業のプロジェクトの進ちょくに合わせて適切な提案ができる。システム商談を焦ることはない」と語る。野村総合研究所(NRI)も、「商談ではJ-SOX対応で終わらず、長期で取り組む意思があるかどうかを必ず話し合っている」。同社が狙うERM(統合リスク管理)ビジネスへの発展を意識したストーリーだ。

 上流コンサルが新規顧客の開拓につながっている点も見逃せない。プロジェクトで主導権を握るのは、情報システム部ではなく財務部門や経営者だからだ。日立ソフトウェアエンジニアリングの場合は「顧客企業の過半数が、ITで取引のなかった企業」(内部統制ビジネス推進本部ソリューション開発部の吉村雅典部長)である。

「どう実現するか」が求められている

 一方、こうした状況に対し、ソリューションプロバイダが提供するサービスの質を疑問視する向きも多い。ある関係者は「監査法人や専門コンサルタントは、人が払底している上に料金が高い。予算の限られるユーザー企業が、妥協してソリューションプロバイダに頼っただけ」と冷ややかだ。

 だがTISの大塚統括マネジャーは、「事業を始めてみて、当社のサービスは監査法人と比べても劣ってはいないと確信できた」と主張する。なぜなら「顧客のJ-SOXプロジェクトを円滑に進行させたり、業務のリスクを見抜いて対策を立てたりする局面では、SIで培ったプロジェクト管理や要件定義などのスキルがそのまま生きる」と言う。これに対して監査法人などの専門家については、「『何をすべきか』の助言は的確でも、その対策を『どう実現するか』の指導が弱い傾向がある」と見る。

 日立システムアンドサービスのビジネスコンサルティング部兼内部統制ビジネス推進センタの高橋まゆみ部長も、「ユーザー企業からは『何をすべきかより、米SOX法で日立グループがどう対策したかを教えてほしい』と頼まれる」と言う。

 またTISはプロティビティジャパンと、日立ソフトは関連会社のビジネスブレイン太田昭和と協業し、専門スタッフを育成したり、必要に応じて専門家から助言を仰いだりするなど、監査視点で見た専門スキルを補う体制も取っている。

 こうしたITサービス企業にとっては、ユーザー企業が必ずしもコンサルタントにJ-SOXの“合格請負人”を期待しなくなったことも追い風のようだ(図2)。J-SOXではユーザー企業と監査人が事前に協議や合意することを推奨している。「監査で重視するポイントはどこか」「ユーザー企業の統制上の弱点はどこか」といった情報は、監査人との話し合いから聞き出しやすい。日立システムの高橋部長は「プロジェクトの節目では、必ず監査人とユーザー企業の打ち合わせに参加する」と語る。

図2●コンサルタントの役割が変わった
図2●コンサルタントの役割が変わった
当初は内部統制監査の“合格請負人”と見られていたが、現在は監査人が助言するゴー到達の付き添い人の色が強まった