「カニバッている」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。「データ品質問題」についての取材を進めている最中,アクセンチュアのコンサルタントである後藤洋介パートナーからこの言葉とその意味を聞き,なるほどと納得した。

 ある大企業でA部門とB部門があった。いずれも一般消費者を対象にしたサービス事業を複数手掛けている。

 A部門が順調に顧客数と売上を伸ばす一方で,B部門は沈滞気味。ある幹部社員が何かがおかしいと感づき,調べてみた。両部門のサービスは比較的重なり合う顧客層をターゲットとしていた。実は,B部門の顧客をA部門が奪っていた。全社の視点から見て初めて,「カニバリゼーション(共食い現象)」を引き起こしていたことがわかったのだ。

 「データが局所化していると,『カニバッている』状況が見えない」とアクセンチュアの後藤洋介パートナーは指摘する。企業規模が大きくなると特に,カニバリゼーションが発生しやすい。「だからこそ,全社横断的な情報システムが効果を発揮する」(後藤パートナー)。

「つなぐ」のに必要な「データつなぎ」

 「最近各所で構築が進んでいる情報システムのキーワードは『つなぐ』だ」。DOA(データ中心アプローチ)をベースにシステム構築のコンサルティングを手がけるデータ総研の堀越雅朗取締役は,最近の動向をこのように説明する。

 好景気の中,CRM(顧客情報管理)やSCM(サプライチェーン管理)システムの構築案件がこれまで以上に増えている。組織・部門でそれぞれが使っている情報システムをつなぎ,モノや顧客の情報を横断的・統合的に扱えるようにする。これにより,全社最適の観点から社内の仕組みを整えたり,製品やサービスを展開しようというのがその狙いだ。

 全社横断的な情報システムを作ろうとしたら,当面の解決策としては各システムのデータを洗い出し,互いのデータを突き合わせるための「データ・クレンジング」が不可欠である。例えば販売部門とサポート部門がそれぞれ持っている顧客データを突き合わせ,データの並びや表記を整理。氏名や住所,所有している製品や契約しているサービスなどの情報を,統合的に扱えるようにする。

 中長期的には,全社共通に使えるデータモデルの設計が欠かせない。そのデータモデルを使って,個々のシステムのデータを“翻訳”する。そうすれば,コールセンターで受けた顧客の要望を販売システムに反映する,といったことが容易になる。

 さらに新しいシステムを作る際には,このデータモデルを使って構築することをルール化する。堀越取締役は全社共通のデータモデルを,人工言語であるエスペラント語になぞらえる。

 全社共通のデータモデルを設計する場合には,各組織が持っている個別の事情を超えた,全社最適の考え方をもって取り組む必要がある。「そのためには横断的な組織体制と,経営陣によるバックアップが必要だ」とアクセンチュアの後藤パートナーはアドバイスする。「失敗している企業はおおかた,この辺の社内調整がクリアできなかったケースだ」とも付け加える。

 日経コンピュータでは十年前から同じ事ばかり主張していて恐縮だが,全社の状態を俯瞰して見るのに最も適した部門は,情報システム部門である。今回の「データ品質問題」の取材では,昨年から今年にかけてERPパッケージ「R/3」による基幹系システムを稼働させたオリンパスをはじめ,様々な情報システム部門の方にお会いした。その中で,「データの全社最適」に向けた決意を多く耳にした。

 情報システム部門は,「カニバッている」状況を克服する鍵を握っている。10月1日号の日経コンピュータ誌には,取捨選択し厳選した取材結果を盛り込む。よろしければご覧いただきたい。

■変更履歴
「カニバリゼーション」の記述を当初誤っていました。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです。 [2007/09/14 09:25]