2007年7月25日に東京で開催された「Tokyo Peering Forum 2007」に参加してきました。このイベントは,ブロードバンド時代において叫ばれているインターネットの信頼性とトラフィックの急増などに対する問題などについて,各分野の第一線で活躍する講演者を迎えて対策・問題意識について話し合うもので,今年で3回目となります。今回は,このイベントの報告と,参加して感じたことなどを書いてみたいと思います。

東京ミッドタウンの豪華ホテルで開催

 「Tokyo Peering Forum 2007」の会場は,東京ミッドタウン内にあるリッツカールカールトンという豪華なホテルです。東京ミッドタウンといえば,すでに東京の観光名所の一つになりつつある場所ですが,実はインターネット関係の某大手二社がこの敷地内にオフィスを構えているというインターネット的にも要所となりつつあることはあまり知られていません。

 ともかく,この東京ミッドタウン内にある豪華なホテルで,しかも公園を見張らせる素晴らしいところで会が開催されるということで,うかつにも心を浮かせて参加したのでした。

写真1●今年で3回目となった「Tokyo Peering Forum 2007」
写真1●今年で3回目となった「Tokyo Peering Forum 2007」

写真2●会場の風景。インターネットのバックボーンやコンテンツ配信の第一線で活躍する講演者を迎え,講演・議論が行われた
写真2●会場の風景。インターネットのバックボーンやコンテンツ配信の第一線で活躍する講演者を迎え,講演・議論が行われた

台湾地震で分かったアジアの光ファイバー事情

 フォーラムは,午後1時から始まりました。前半戦は,諸外国からの講演者からビデオ・インターネットに関する講演やDDoSアタックに係る話題,コンテンツ・デリバリーに関するお話などが並びます。この中で,注目すべきはVSNL社のSylvie Laperriereさんによる「Taiwan Earthquake Fiber Cuts : a Service Provider View」という講演です。台湾地震が発生した際に影響を受けた海底光ファイバーケーブルに関する内容です。

 そもそも,日本は周りがすべて海で囲まれている土地ですから,インターネットのような国際的なネットワークを見た場合には海外へと通じる海底光ファイバーケーブルの存在は見逃せません。講演によると,現状,光ファイバーは,米国へつながるルートとアジア太平洋地区へとつながるルートと大きく二種類に分類することができ,台湾地震関係ではこのアジア太平洋地区へとつながるルートの一部に影響があったということです。

 光ファイバーが切断されれば当然その先につながっている国々への接続も切れてしまいます。そこで,いかに光ファイバーの冗長ルートを持つか,そして,如何に早く接続を回復できるかが問題になります。講演では,アジア太平洋地区における光ファイバールートを解説しながら,問題となった場所やそこでの回復作業の苦悩などについて紹介していました。特に,海底に敷設したケーブルの切断点を見つける技術,そして,その切断部分の両端を海上から引き揚げる作業の難しさは,図やアニメーションを使い細かく解説され,その技術の高さに感銘を受けました。

P2P技術でストリーミング・トラフィックを抑制

 その後,休憩を挟んで,日本の著名人からの3講演が続きました。注目したのは,TVバンク株式会社(サイバー大学)の川原洋氏による「P2Pテクノロジーによる動画配信の実践」です。ビデオ配信で問題となるのは,配信サーバからクライアント一つ一つに向けて発せられる大量のトラフィックをどのように効率よく行うかという問題です。

写真3●講演するTVバンクの川原 洋氏
写真3●講演するTVバンクの川原 洋氏

 単純に,ユニキャストによる接続をビデオ配信サーバが受けてしまえば,ビデオ配信サーバに接続が集中し,そこから映像のストリーミングの配信を行うため,ビデオ配信サーバのあるネットワークノードは大量のトラフィックを裁かなくてはならなくなり,数万人に及ぶ映像配信を行う場合には致命的な問題になりかねません。そこで,この大量のトラフィックを効率よく分散して配信するということをしなくてはなりません。回避方法としてはマルチキャスト技術を用いるのが一般的ですが,近年では,配信方法の一つとしてP2P技術を利用した配信方法も注目されています。

 川原氏によれば,TVバンクでは,サービスとしてこのP2P技術を利用していると発表しました。P2P技術による配信では,ソースとなるビデオ配信サーバから一部の利用者に直接映像を配信し,それを受けた利用者は,また次の利用者にその映像を中継配信するというような構造によって映像を配信します。つまり,利用者同士による中継構造によって配信することで,サーバ側では,一部の利用者にだけ映像を配信すればよくなり,配信サーバの負荷だけでなく,配信を行うセンター局からのトラフィックが劇的に抑えられるという特徴を持ちます。

 講演では,最大同時接続数が約4万9千人に達したイベントでは,P2P技術を使わなかった場合では約37.3Gビット/秒に及ぶトラフィックが見込まれたのに,P2P技術を使うことで,約6.9Gビット/秒まで抑えられたということでした。この差が,実に30Gビット/秒にもなるというわけです。

図1●ソフトバンクが実施したピア・ツー・ピア技術を使ったコンテンツ配信実験。2006年10月11日に実施された北海道日本ハムファイターズ対福岡ソフトバンクホークスのプレーオフ第1試合の様子をインターネット配信したときのトラフィックの推移。ピア・ツー・ピア技術の採用によって,30Gビット/秒以上のトラフィックが抑制された。図は当日の講演資料を基に作成した
図1●ソフトバンクが実施したピア・ツー・ピア技術を使ったコンテンツ配信実験。2006年10月11日に実施された北海道日本ハムファイターズ対福岡ソフトバンクホークスのプレーオフ第1試合の様子をインターネット配信したときのトラフィックの推移。ピア・ツー・ピア技術の採用によって,30Gビット/秒以上のトラフィックが抑制された。図は当日の講演資料を基に作成した

 P2Pといえば,多くのプロバイダからは悪者として扱われていました。しかし,昨今では,今回の例のように,この技術を応用して,サービスに生かすという傾向もみられてきています。実は,このあとに,東京大学の江崎教授を交えたパネルディスカッションも行われ,この中でも江崎教授は「悪者として扱われていたP2P技術がサービスの局面で行かされるようになったということは,それだけ技術が浸透したということの表れ」とコメントしていました。