ラックの固定方法にもいろいろある

 地震の多い日本では,ビルの耐震性はもちろん,ラックの耐震性も考慮する必要がある。ラックの耐震規格には,NEBS規格,NTT耐震規格,NTTファシリティーズの耐震試験規格など数種類ある。

 地震対策としては,こうした規格に準拠したラックを用意し,床にしっかり固定するのが定石だ。しかし実際には,「ラックの固定にまで気が回っていない企業は意外に多い」(NECネッツエスアイの仙石敬司ファシリティ&サービス事業部ファシリティエンジニアリング部システム課長)という。ラックをきちんと床に固定してあるか確認しておきたい。

 ただ,どんな場合でも単純にラックを床に固定すれば済むわけではない。例えばインテリジェント・ビルや,フリー・アドレスを取り入れている企業は要注意。「二重床の上床への固定はほとんど効果が見込めない。ビルの床スラブにしっかりと固定する必要がある」(仙石システム課長)。

 また,半固定という設置方法を選ぶ手もある。トグルバーと呼ばれる継ぎ手状の金具を使って,ラックのキャスターとビルの床スラブを連結する方法である(図1)。ラックの転倒防止策になる点では固定式と同様だが,半固定式は地震の振動を吸収できる免震のような効果が得られる点が異なる。これにより,ラック内に収容したサーバー・マシンの損傷を軽減できるという。

図1●ラックと床の固定方法には固定式と半固定式の2種類がある
図1●ラックと床の固定方法には固定式と半固定式の2種類がある
ラックが転倒しないことを目的とする点ではどちらも同じだが,半固定式は免震のようにラック内の機器の保護を重視している点が異なる。

免震台の可動幅は大きいほどいい

 床とラックの間に置く「免震装置」(免震台)には,地震の加速度を低減させる部品(支承)の素材の違いにより,いろいろな種類がある。具体的には,ゴムを使用したゴム支承,ベアリングを使用した転がり支承,摩擦抵抗の小さい物質を使うすべり支承などである。最近では減衰ダンパーを内蔵し免震に近い効果が得られるラックまで登場している(写真1)。

 建物の状態など環境はユーザー企業によって違う。このため,それぞれ適する免震装置も異なる。ただ,同じタイプの免震装置を比較するなら,可動変位量(ストローク)が長い免震装置のほうが安心である。可動変位量とは,地震が発生した場合に免震の下床が動ことができる幅(可動幅)のこと。この可動幅を超える地震の揺れがあると,ラック内の機器が損傷を受ける危険がある(図2)。

図2●免震台は可動幅も考慮に入れて決める   写真1●免震に近い効果を得られる制震ラック
図2●免震台は可動幅も考慮に入れて決める
可動幅を超える地震の揺れがあると,ラック内の機器が損傷を受ける危険がある。
  写真1●免震に近い効果を得られる制震ラック
写真は日東工業の「ガルテクト」
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 「一世代前の免震装置では20cmの可動幅が主流。新潟県中越地震ではこの可動幅で足りなかったところもある」(日東工業の大口知弘営業本部IT開発営業部部長)という。


押さえておきたい耐震規格は三つ

 ラックの耐震規格にはいくつか種類がある。このうち押さえておきたい規格は,NEBS規格,NTT耐震規格,NTTファシリティーズ耐震試験規格の三つである(表1)。

表1●主な耐震規格の比較一覧
表1●主な耐震規格の比較一覧
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 NEBSは,旧・米ベル・コミュニケーションリサーチ(ベルコア)が策定した古くからある米国業界規格で,IEC(国際電気標準会議)規格という国際標準よりも,NEBS規格の方が浸透している。耐震強度はZONE0~4の5段階がある。最高強度はZONE4だ。米国ベンダーの機器には,NEBS規格のどの耐震強度以上のラックが必要という環境条件が付いているため,NEBS規格は覚えておいた方がいいだろう。  一方,NTT耐震規格とNTTファシリティーズ耐震試験規格はどちらもNTTファシリティーズが策定したもので,後者の方が条件が厳しい。

 NTTファシリティーズ規格の耐震強度は5段階。最高が「R12」と表記するランクで,1200ガル(最大入力加速度)に対応することを指す。震度で表すと,耐震ビルの最上階に設置した場合には震度6強まで,上層階の場合は震度7まで耐えられるということになる。